戦略・事業
なぜ飲食店の倒産は増え続けるのか【後編】
2020.01.28
前編では、データの読み込みから現代日本のマーケティングにおける特徴である年代別人口構成。商売を諦める人の世代の問題に触れつつ、最後の方で、比較的若い創業者が多いと思われるラーメン屋をはじめとする一部の飲食業態には人気稼業の側面があり、結局のところ中身が想定顧客層に伝わっていないことが多いことについて触れた。
そこから、飲食店の倒産が今後も増え続けるであろうと思われる論理を展開していく。
【4】 外食産業は参入障壁が低い
そもそも飲食店はなぜ新規参入が多いのか。まずはそこに着目していきたい。
飲食は生存に不可欠な欲求と前編で述べたが、多くの人が一日三回の食事を摂る。そして自炊する人は、その回数だけ調理も行なっていることになる。
すなわち、元から人々の日常生活の中には調理や喫食という行為が存在する。この行為が好きだったり得意であると自覚する人の中で起業精神が豊かな人の一部が飲食事業を立ち上げていることになる。
飲食店事業を開始するには特別な資格も経験も不要で(調理師免許は必須の資格ではない)、しかもラーメン屋、そば・うどん屋、居酒屋あたりになると、簡単に始めることができてしまう。居抜き物件を使えば開業資金もそれほどかからない。要するに事業者が素人なのだ。なので潰れてしまう。
(きちんと勉強して開業した方ごめんなさい!)
なんだそんなことか。と、またがっかりさせてしまったかもしれない。
一つ目の要因は経営者の高齢化で、二つ目の要因はおいしさが伝えられていないから。後編でようやくマーケティング的な考察になるかと思えば、三つ目の要因が素人だから。。。
前編から私が述べてきた内容には、実はあまりマーケティング的要素が含まれていない。ここまでの内容だけなら、マーケティングに興味を持つ方々に提供する読み物としては不適格であると自分でも思う。マーケティングが力を持つのはこの先の段階なのだ。ぜひ興味を持って読み進めて欲しい。
まず、多くの飲食店では、自分の店の販売傾向や、顧客の嗜好などについて、ほとんど興味を持っていない。嘘だと思うかもしれないが、食の業界に20年あまり身を置いてきた私の実感として、これはおそらく正しい。
なぜ、多くの飲食店がマーケティングに興味が無いかというと、その創業の背景が「自分の作るおいしい何かを人に食べてもらってお金をもらおう」ということに発端があるからである。「お客様の喜ぶ何かを作る」ではなく、自分の作るものが起点となっている。ここが決定的に他の産業に比べると弱い。
一般的に事業が誕生する時にはマーケットリサーチを行ない、マーケティング的に言われる世の中の「ニーズ」「ウォンツ」あたりを突き止めて商品やサービスを構築する。しかし、ほとんどの飲食店にはそれが無い。商圏範囲に居る人々が持っている食事をするという生活習慣に「良かったら私の作ったもの飲み食いしておくれ」と便乗しているだけなのだ。なので上手くいくわけがない。
他の業界に身を置く方から見ると「よくもそんな無鉄砲な・・・」と感じるかもしれないが、人が一日三回食事を摂る、すなわち経済行動を起こす回数が多いだけに、車や電化製品を売るような商売ほど緻密に考えられていないのである。
例えば商品やサービスに、何か創造性があったり、差別化要因があったりすれば、あとはそれを欲する消費者に「どこでそれが体験(食の場合は喫食)できるのか」が伝われば繁盛するのであるが、たいていの場合には、そんな新規性は無い。なので、どこにでもある平凡な店が生まれただけで終わるのである。
この顧客が欲するものが何かを考えていないから繁盛しないという事実を私が指摘すると、多くの飲食店経営者は言うのだ。
「日々、お客様からご意見を伺ってますが」
マーケティングを仕事としている方や、ビッグデータを扱っている方には、もう説明は不要だろう。飲食店経営者の多くは、自分にとって考え方の近い、耳障りの良い言葉だけを参考にして、面倒な意見は聞き流し、自分によって心地の良い店を作っているのである。
これでは繁盛するべくもない。
顧客のための店ではなく、自分のための店なのだから。
まして、サラリーマン生活に嫌気がさした自分の逃げ道として生まれたような飲食店が、顧客に愛される存在になるはずなどないのである。
一方で、飲食店を開業して繁盛させている創業経営者が言うことは明らかに異なっている。彼らは皆、口裏を合わせたように言うのだ。
【お客様を喜ばせたかった】
【喜んでもらえるなら料理の種類は何でも良かった】
【居心地の良い店を作れるなら場所は二の次だった】
つまり、無意識に「お客様が何を望んでいるのか」を考え、それを提供する場を作っただけなのである。
飲食店という障壁が低い業態に多くの事業者が参入している中で、多くの「自分が作りたいものを出しているだけの店」が、一部の「顧客が求めるものを出している店」に負けてしまうのは当然の成り行きである。そしてネットで情報が拡散する今の時代に一部の魅力的な店だけが繁盛してしまうのも自明であろう。
【5】 マーケティングを知る者と知らない者の決定的な差
また、マーケティングそのものに対する無知や無理解も理由として挙げられる。
飲食店を開業する人の中で、マーケティングを学んだり、仕事でデータを扱った経験のある人はほとんど居ない。なぜなら、そのような職務経験は、一定以上の規模の企業に在籍し、特定の職種などに就かねば触れ合うことが無いからである。そしてそのような経験を身に着けた者が飲食店を独立起業して勝負に出るというキャリアデザインを持つ可能性が低いからである。
それでもまだ、自分にはそのような知見が無いと自覚している人は行動に移す。ただ、そこでの間違いもよく見る光景である。
自分の店の経営が上手くいかない時に、多くの人は社会人時代の先輩や、業界の成功者の助言、あるいは繁盛店を競合調査した結果などを参考にしがちである。センセーショナルな表紙のビジネス本などを読みこむ人も多い。
しかし、その時にその経営者が営んでいる事業は、過去に在籍した会社の事業とも、先輩の事業とも違うし、繁盛店とは知名度や商圏も違うし、そもそもクオリティやサービスに歴然とした違いがあることが多い。本に書かれていることは普遍的なものでしかない。すなわち参考にならない場合が多いのだ。
自身の事業における改善策を見出す時に一番有用なのは、自社の中に眠っているデータである。それなりの大きさの飲食チェーン出身者が独立した時に店を繁盛させるのは、彼らが何かの問題に直面した時に、きちんと自社のデータを見て、客数や客単価という基本的な経営数字、フードとドリンクの売上比率や、顧客の平均滞在時間、各メニューの原価率などをチェックしているからである。
こういうことが書かれている本を運良く手にした人は苦境から脱する場合もあるが、マーケティングを知らない商売の素人が的確に本を選ぶ可能性も極めて低いので、結局は本の表紙に騙されてしまうのだろう。怪しい高額のセミナーに通い始めたりする人も居て、目も当てられない惨状になったりもしている。
自社のデータの考察については別に専門的な分析能力を必要とするものではない。
例えば、客数が減り始めたら、次に新規客が減ったのか、リピーターが減ったのかを調べ、新規が不足しているなら広報を、リピーターが減っているのなら顧客へリサーチをかける程度の動きである。客単価が下がっているのなら、料理の内容や店内の居心地など、あるいはホールスタッフのおすすめがきちんと機能しているかどうかなどを調べるのである。
しかし、脱サラなどで急に飲食の世界に飛び込んだ素人はそれを知らない。新商品がヒットすれば売上が回復すると信じて、料理研究家やフードコーディネーターを自称する近しい友人などにメニュー開発の依頼をしたりする場面をよく見ることがある。
誤解しないで頂きたいのだが、料理研究家やフードコーディネーターが悪いのではない。経営分析をした結果として、新規性のあるメニューが必要であるという経営判断を下し、かつ経営者自身では新しい企画がもう生まれてこないという場面においては、その対策は正しい。
問題なのは「うちの店上手くいってないので新商品をよろしく頼む」と丸投げすることである。このような行為はほぼ失敗で終わる。仮に新メニュー開発が必要であったとしても、例えばそれが、その店のメニューの中の、どのカテゴリーの、どれくらいの価格帯なのか、具体的な指示が必要である。指示も無い中で「何か考えて」と頼まれて、それに対応している料理研究家などを見ると可哀想でならない。
居心地の悪い店にテーブルコーディネートを導入している場面などを目にすると「掃き溜めに鶴」って本当にあるんだな。。。とさえ思う。
経営者がマーケティングを知っていれば、あるいはマーケティングに強い担当者が社内に在籍するか、そのようなコンサルタントなどが付いていれば、そんな悲劇は回避できるはずだ。
【6】 マーケティングの概念が入り込む余地が最も残っているのが飲食店
第4章からの続きになるが、ここで前編の冒頭で述べたことが重要性を帯びてくる。
「なるべくデータ等の欠損を無くすこと」
これは、POSなどのシステムを使うデータ解析のみならず、顧客からの助言という形での情報提供でも、同じであることを忘れてはならない。店にとって都合の良いお世辞も、厳しい苦情も、全て同じ重要度の情報として、経営資源に組み入れていかなければならない。
マーケティングを知る者と知らない者の差について述べてきたが、知る者はデータを網羅的に考察し、そこから経営課題をあぶり出し、的確な対策を打つことができる。知らない者は自分に都合の良い情報を都合の良い場面だけで取り入れ、場当たり的な対策を打って改善に失敗する。
ちなみに余談であるが、経営者に限らず中間管理職層の人材でも、仕事ができる者は可能な限り多くの情報を得て正しい道を選ぼうとし、仕事ができない者は自分にとって都合の良い情報だけに従って誤った道を進む。その共通性についてはまた別の機会に述べたい。
本題に戻るが、私がこのようになるべく多くの経営情報を把握しようと進言した時に、経営者からよく受ける批判が「個人経営などの中小規模店舗で網羅的なデータが存在しないので仕方がないのだ」という意見である。
しかし、これは言い訳に過ぎない。
自らの無知を「情報が不足している」ことを理由に認めようとしていないだけである。
中小規模の飲食店でも、昨今はPOSシステムの利用が活発になっている。タブレット端末を利用した数万円程度での安価な導入が可能になった背景によるものだろう。私の知る限り、経営が上手くできていない中小規模の店のほとんどで、販売データは全く活用されていない。POSに付録程度に付いていたアプリをちょっといじってみて、せいぜい、食材の発注数を考える時の参考程度にされているくらいである。
私の経験から言えば、年商3億円程度の事業でも販売データを分析してマーケティング戦略を策定するところまで到達しているのは半分にも満たない。ちなみに年商3億円の飲食店というのは、かなり繁盛している中型の店舗が3つ、あるいは小型店舗が5つくらいの経営規模である。せっかく複数の店舗に同じシステムを入れたのに、それでもなおPOSシステムの中の販売データは活用されていないのだ。
また、余談が多くて恐縮だが、一部の飲食店が販売データを全く使わずに繁盛しているのを見て「データなど役に立たない」「飲食店にマーケティングなど不要」と斬り捨てる人々もいる。しかし、実態を見ていくと、そうして繁盛している飲食店には、カリスマ的な創業経営者が居ることが多く、彼らの天才的なセンスによりお客様が求めていることに瞬時に対応できる店になっていることが多い。
そして何より、彼らは「お客様を喜ばせたい」という理念で創業した方々ばかりで、そういう「場」を作ることに徹しているのだ。そしてそれらの天才は、例外なくSNSなどのウェブ上でも人気者であり、自らをタレント的に演出しながら集客に成功し、店舗を増やし、コラボ事業やコンサル案件などを受け入れて事業を拡大するのに成功している。
イチローの講演を聞いた全ての人がヒットを打てるかというとそうではないように、一握りの天才が取る方法を模倣して他の人が同じことができるかといえば、できるはずもないのである。
残念ながら、そんな一部の天才ではない平凡な飲食店経営者や私たち事務方の人間は、POSの中に眠るデータから、店を繁盛させるヒントを探す方が余程効率が良い。
バブル崩壊以降に脱サラの機運が高まり、軽い気持ちで飲食店を開業してしまう素人が増えて、実力と人気が一致しないという芸能のような厳しい業界特性の中で、そろそろ高齢になり体力や気力が続かなくなった者が飲食の業界から去っていく。
令和の新時代になった今、終身雇用制度が崩れた社会環境の中で、新規参入は増え続けていくだろう。人口が減少し、ますます競争環境が厳しくなる中で、立ち行かなくなる飲食店が増えるのは明らかである。
経営者の人格や行動が、ある日突然がらりと変わることなど、ほぼ無いと言って良い。私が今まで一緒に仕事をしたり、採用や教育で関わってきた人々を見ても、人は30代までの経験に基づき行動習慣が固まってしまい、40代以降で覚醒するような人は1%も居ない。
ならば、繁盛できない飲食店経営者は諦めるしかないのか。
自分一人で悩んでいるのなら、いずれ倒産する以外に道は無いだろう。それを防ぐためのヒントは、実は最も身近な自分の店の販売データの中に転がっている。
それらを活用するための基本的なマーケティングが重要であると考える。すなわち、若きマーケッターが活躍する場面が日本中の飲食店に残っているということである。
◆戦略にリサーチにリソースが割けない!そんなときは?
戦略の意思決定を誤らないために、最低限重要なことだけを明確にできれば、
費用や時間がかからない簡単なリサーチでも十分です。
また、アンケートプロモーションでは、プロモーションと併せてリサーチをおこなうなど、リサーチとしてのコストをかけずに広告効果の補助として適切なリサーチ・マーケティングを行うことも可能です。
私達、株式会社まーけっちは、事業の成功に根差した、リサーチ・マーケティング支援を追及しています。
手法や戦略にご興味があるという方はお気軽にご相談下さい。
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◆代表プロフィール
株式会社まーけっち 代表取締役社長 山中思温
マーケティングリサーチのプラットフォームの企業で、 最年少で事業部を立ち上げ、広告予算ほぼゼロで、国内トップの実績を達成。
中小・スタートアップ企業のマーケティングに関する構造的課題を痛感し、それを解決するため、株式会社まーけっちを創業。大手企業・国家機関・スタートアップなど100社以上の戦略支援を行い、コミットと売り上げ貢献成果に定評がある。上智大学外国語学部卒。
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