インタビュー
【スタートアップ・新規事業】これを聞いたらやばい!?失敗の兆候発言ワースト10
2019.12.31
私は、先週あるマーケティングのイベントに参加してきました。
そこで、あるIT企業で新規事業開発を担当しているAさん(仮名)に出会いました。
実は、新規事業が迷走していて、もうこのままでは投資が回収できず、大きな損失…いわゆる大失敗で終わりそうということでした。
不安そうな新規事業開発担当のAさんのエピソードを詳しく聞いていると、「そんな会話、上手くいってない現場であるあるだなあ」というものばかりでした。
新規事業開発の失敗は防ぐことができる
彼女は新規事業開発を担当してまだ6か月だそうです。何の経験や知識もなく、任せられた新規事業を成功させられるのか、失敗して左遷されたりしないか、ただひたすらに不安そうです。
少しでも新規事業の成功確度を上げるため、失敗の兆候に早めに気付き、対策を取っておくことが重要です。そこで、今回のコラムでは、Aさんが現場で聞いた発言を、失敗の兆候発言ワースト10としてまとめてみました。
写真:Pixabay
新規事業開発の失敗兆候発言①「1000本ノックしてほしい。」
Aさんの会社では、新規事業としてある商品の販売をはじめました。しかし10ヶ月たっても売り上げが伸びていなかったそうです。
役員はAさんに次のように話しました。
役員:「どうやって売ればいいかアイデアがほしい。1000本ノックでアイデア出してくれないか?」
Aさん:「・・・闇雲にアイデアを出すよりも、一番良い仮説で始めるのはどうでしょうか?」
役員:「色んなアイデアを出してもらってこっちでまず色々と検討したいんだよ。」
Aさん:(まじか・・・本業もあるんですけども・・・)
【新規事業開発の失敗ポイント 解説】
一般的に「新規事業のアイデアは多ければ多いほどいい」、という考えがあります。「新しいビジネスが当たるのは千三」という言葉があるように、新規事業に投資するファンドなどは幅広く投資し、大当たりする少数の事業で利益を出します。Paypal 創業者の一人であるPeter Thielも、ベンチャーキャピタルのリターンは、正規分布のような対称性とは異なり、リターンに強い偏りがあると言っています。
参考記事:
スタートアップに必要な「反直観的な思考」とその解剖 2.非対称性は人の直観を惑わす
一方で、リソースがない中で新規事業を立ち上げる場合、1000のアイデアを検証することは現実的ではありません。最良の仮説を選んで検証を進めるほうが効率的です。
また、一般的に「量で質をカバーする」という考え方がありますが、本当に量で質をカバーできるのでしょうか?数打ちゃ当たるで貴重な時間と労力を無駄にしないことのほうが、制約の多い新規事業開発では大切ではないでしょうか。
新規事業開発の失敗兆候発言➁「いいアイデアありませんか?」
Aさんの会社では新規事業を立ち上げたいと考えている管理職が多いそうです。
ある管理職は、Aさんに次のように話したそうです。
管職職:「何か新規事業のいいアイデアありませんか?」
Aさん:「何かいいアイデアと言われても・・・」
管理職:「ブレスト一緒にやろうよ。」
Aさん:「・・・」
【新規事業開発の失敗ポイント 解説】
「新規事業はアイデアが大切」、と一般的に言われていて、新規事業開発ではワイガヤ(※ワイワイガヤガヤ、みんなで話し合う活動を指す。)を行い、アイデア出しから始めることが多いのではないでしょうか。
そのようなアイデア出しでは、発案者の頭の中で思いつくことを言うので、そのような初期フェーズのアイデアは通常、まだ仮説です。
そのアイデアは本当に成立するのかどうか、アイデアの背後にある前提条件を確認する必要があります。
そのためにヒアリングや行動観察で、根拠となる一次情報を集め、仮説を検証していきます。
アイデアよりもアイデア検証のプロセスのほうが大事ですが、アイデアを過大評価して検証のプロセスがないがしろになってしまうケースが多いようです。アイデア不要とさえ唱える起業家もいます。
参考記事:
20代で資産10億、「アイデア不要論」を語る | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
新規事業開発の失敗兆候発言③「死ぬ気でやってみろ!」
新規事業開発を担当することになった時、Aさんは前の上司に次のように言われたそうです。
前の上司:「新規事業開発に本当に専念して大丈夫かな。そんな簡単なことじゃないよ。行き詰まることもあると思うし。」
Aさん:「・・・」
前の上司:「やるなら死ぬ気でやってみみろ。」
Aさん:(いや普通に会社の為になんて死にたくねえよ・・・)
【新規事業開発の失敗ポイント 解説】
この上司ははっぱをかけようとして、悪意なくこのような発言をしたのかもしれません。しかし、新規事業開発は死ぬ気でやれば成功するという訳ではありません。
がむしゃらに働くことは新規事業開発を進めていく上で弊害になることもあります。なぜなら新規事業開発は時間とリソースの制限があるからです。
実際に上司は新規事業開発をやったことがないのに、「新規事業=大変で苦しいもの」という先入観で的外れなアドバイスをしてしまっているのかもしれません。
もっと社内で新規事業開発の進め方について勉強することが大切かもしれません。
新規事業開発の失敗兆候発言④「まず企画書作ってみてくれ。」
Aさんが新規事業で取り組む課題について研究しようとしていた際に、役員から次のように言われたそうです。
役員:「まず企画書作ってみてくれ。」
Aさん:「なんの目的で作成すればいいのでしょうか?」
役員:「企画書なしに新規事業は検討できいないだろう?」
【解説】
企画書を作成するのは当たり前なのですが、いつのまにか見栄えのいい資料を作ることが目的になってしまうことが多いようです。
現場の一次情報から得られる本当のインサイトといった情報を得ることが一番重要です。資料作成よりも、まずターゲットの人と会話をするほうが有益だと思いませんか?
リーンキャンパスというシンプルなフレームワークもあります。新規事業開発における書類を作成する作業を、一度見直してはいかがでしょうか。
参考記事:
リーンキャンバスとは ?事業計画書を作ろう・実践編【テンプレート付】|ferret
新規事業開発の失敗兆候発言⑤「名刺をバンバン撒いてこい。」
Aさんは前職でインバウンド営業の経験があったそうです。(※お問い合わせがあった見込み客に対して営業するスタイルの営業を指します。)
しかし、新規事業開発では、テレアポや飛び込みなどで新規顧客を獲得をすることになりました。
Aさんが所属する新規事業開発チームにはマーケティングの背景を持った人材がいないでそうです。そもそもAさんの会社にマーケティング部がないそうです。
Aさんは、次のように上司に言われました。
上司:「営業を怖がってはいけないよ。新規事業開発では全員営業だよ。」
Aさん:「誰でもいいという訳ではないかと・・・」
上司:「いいから名刺をバンバン撒いてこい。」
【新規事業開発の失敗ポイント 解説】
新規事業開発では、泥臭い営業も必要です。y-combinatorのPaul Grahamによると、airbnbでさえ、新規ユーザー獲得に戸別訪問もしたそうです。
参考資料:
ポール・グレアムのエッセイ スケールしないことをしよう 前編
ポール・グレアムのエッセイ スケールしないことをしよう 後編
しかし、限られた時間とリソースの中で成果を出すためには、マーケティングも最大限活用する必要があります。
根性論ありきの営業手法で効率的に動かないと、チームが無駄に疲労困憊してしまうことがあります。
新規事業開発の失敗兆候発言⑥「日付・スケジュール徹底が必要だ。」
Aさんの会社にある40代の部長がいて、若い社員に求めてもいないアドバイスをしたがるのだそうです。
ある時、Aさんに次のようなことを言ってきたそうです。
部長:「新規事業で苦戦してるんだって?
オレ若いころ会社員しながら、週末に起業したことあるんだよ。
結局、途中でやめちゃったなあ。
会社員でそこそこいい給料もらってたんだよ。
だから本気になれなかったんだよ。
いつまでに会社員を辞めるって期日を決めてたら本気になれたかもしれない。
Aさんも本気でやるなら、期限決めてやりなよ。
〇タミの社長だっけ、夢に日付をとかいうじゃん。それって大事だよ。」
Aさん:「・・・」
【新規事業開発の失敗ポイント 解説】
非現実的な期日を設定してしまうことで、その期日を守るためにニーズおざなりは良くあります。
期間を決めているからお客さんが欲しがる商品を作れる、という訳ではないということですね。
期日の根拠がないのに、希望的観測で期日を決定するのも問題ですね。
背水の陣になれば新規事業で成功できるということではないので、行き過ぎだ精神論や根性論は新規事業開発では問題です。経営層に相談しても「がむしゃらにがんばればできる」というような趣旨のアドバイスしかない現場は多いです。
ただ、期日を決めていないと、プロジェクトがなだれる場合もあるから難しいですね。
参考記事:
QC活動の目標設定(客観説TQM)