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ロジカルの矛盾 ~論理的思考力と「合理的な行動」に横たわる壁~ logicalParadox
2025.04.12

「私はロジカル」それほんと?
「ロジカルに考えられること」と「合理的に行動できること」は、まったく別です。
論理的思考力を持っていても、現実世界で、合理的に判断し行動することは驚くほど難しい。そもそも、目的や評価が人によってバラバラなことも多く、かなり定義を細かく置かないと、合理的であったかの評価は変わってしまうし、正解を正確に定義するには、非合理的な行動量が必要になる可能性が生じる「ロジカルの矛盾」とも言える構造的なジレンマが存在しています。
「完璧にロジカルで合理的」だったと断定できることは少ないはず。ご自身や周りの方が「論理的である」と評価する場合には何をもってそう判断できるのか、注意した方がいいかもしれません。
今回はこの矛盾構造を整理し、ビジネスパーソンが合理的な成果を生み出すために必要な資質・考え方や乗り越えるべき課題を考えてみましょう。
ロジカルな行動の根本構造
感情が目的を生む — ロジックの起点は「論理ではなく感情」
人は「こうしたい」「こうなりたい」という感情から目的を設定します。
この目的の強さ(行動のドライブ力)は、感情エネルギーの強度によって決まります。
感情 | 目的設定例 |
---|---|
もっと稼ぎたい | キャリア戦略を練る |
悔しい・負けたくない | 勝つための戦略行動 |
世の中を変えたい | 新規事業を考える |
→ ロジカルな行動とは、感情が生んだ目的の達成手段に過ぎません。
ロジカルな基盤構築の難しさ
感情制御と他者視点の両立というジレンマ
・感情を燃料に行動するが、冷静さを失えば暴走する
・自己完結的な論理力が高い人ほど、他者視点を持つことが難しい
→ 本当に強いロジカルな基盤を作るには、以下が必要
-
①強い目標志向と行動量
- ②感情コントロール
- ③他者視点の精度向上(観点の網羅性)
①突破力(やりきる力)
概要
目標を達成するために困難を乗り越え、行動し続ける資質です。主に以下の能力が含まれます。
-
自己探求・目標志向(自己のミッション定義と実行力)
-
イノベーション・挑戦(新しいことへの挑戦心)
-
情報処理・集中(短期的な情報整理力)
重要なポイント
・変化やリスクを恐れず、行動に移す力
・高い集中力と実行力
②ロジカル/合理(論理的思考力)
ロジカルについては分解して詳しく解説します。
戦略/俯瞰/観察思考
自己や他者の感情から距離を置き、事象を事実ベースで観察・分析し、論理的に最適解を考える力
気質が高い人の経験・行動
-
感情的な状況で事実と解釈を切り分けて行動した経験
-
問題の全体構造を図解・整理し、チームに共有した経験
-
他者の行動パターンを観察し、適切なフィードバックを行った経験
-
複雑な情報やタスクを因果関係で整理し、論理的に説明した経験
発達特性 | 強み | 課題 |
---|---|---|
ASD傾向(自閉スペクトラム) | 感情に流されず事実重視 / データ・パターン把握力が高い | 他者視点の欠如 / 部分最適思考に陥りやすい / メタ認知が弱いケースも |
ADHD傾向 | 瞬発的な観察力 / 多視点からの発想 | 情報整理が苦手 / 論理の飛躍 / 全体俯瞰に弱いケースあり |
心理的柔軟性
変化やストレス環境下でも、自分の思い込みを捨て、新しい視点や行動を取り入れる資質
気質が高い人の経験・行動
-
過去の自分の成功パターンを捨てて、新しいやり方に挑戦した経験
-
フィードバックや失敗を受け入れ、すぐに行動修正した経験
-
異なる文化・価値観の人と協働し、成果を出した経験
-
固定観念を手放し、自分の思考や行動パターンをアップデートした経験
発達特性 | 強み | 課題 |
---|---|---|
ASD傾向 | 決めたルールや仕組みを徹底し続ける | 固定観念・マイルール依存 / 環境変化に弱い / 変化への抵抗 |
ADHD傾向 | 飽きっぽい分、環境適応力・切替は得意 | 目移り・短絡的行動 / 深掘りの継続が苦手 |
ストレス耐性/神経症的傾向(感情コントロール)
特性の意味
・感情や環境変化に左右されず、冷静・安定した思考・行動を維持する能力。強い人は感情に負けないように自己洗脳をかけ、それをコントロールできる。
気質が高い人の経験・行動
-
緊急事態やトラブル時に冷静に行動した経験
-
プレッシャー環境下でもパフォーマンスを維持した経験
-
怒りや不安を感じても、自己管理・リセットしながら行動した経験
-
睡眠・運動・習慣によるセルフマネジメントができている
発達特性 | 強み | 課題 |
---|---|---|
ASD傾向 | 感情表出が少なく冷静に見える | 内部ストレス過多 / 過敏・パニック / 予期せぬ状況で固まる |
ADHD傾向 | 状況変化への瞬発対応 / アドリブ力 | 衝動的反応 / 感情のコントロール困難 / 焦燥・不安が強いケース |
なぜこの3特性が合理的行動に重要か?
特性 | 合理的行動への寄与 | 理由 |
---|---|---|
戦略/俯瞰/観察思考 | 情報整理・最適解探索 | 感情に流されず、論理的な意思決定の核になる |
心理的柔軟性 | 環境適応・行動変容 | 正解が変わる世界での生存戦略 |
ストレス耐性/感情コントロール | 冷静な行動維持 | 衝動・感情支配を抑止し、継続的成果を生む |
③共感(他者理解・協働力)
概要
他者と協働しながら目標達成をするうえで不可欠な資質。チームワークや信頼構築に寄与します。
-
情動の共感性(相手の感情を察知する力)
-
利他性/貢献欲求(他者支援意欲)
-
外向性/他者への興味(コミュニケーション力)
重要なポイント
・相手の立場に立てる思考力
・他者と良好な関係性を築ける行動力
資質の組み合わせと合理的な目標達成への活用
観点 | 必要な場面 | 組み合わせ効果 |
---|---|---|
突破力(やりきる力) | 新しい挑戦や困難な目標に直面したとき | 自己目標の明確化+行動力が生まれる |
ロジカル(合理思考) | 情報分析・戦略立案・問題解決 | 冷静な判断と論理的な行動に繋がる |
共感(協働力) | チームでの業務や他者との交渉 | 他者支援や巻き込み力が高まる |
なぜこの組み合わせが重要か?
合理的な目標達成とは「個人の意志・能力」だけで完結するものではありません。現代のビジネス環境では、以下の流れが求められます。
-
自己探求・目標設定(突破力)
-
情報収集・分析・戦略立案(ロジカル)
-
チームでの協働・実行(共感)
この3ステップを高速で回せる人材こそが「合理的な目標達成力」に優れたビジネスパーソンといえます。
実務では
-
「突破力だけ」で突っ走ると独りよがりになる
-
「ロジカルだけ」だと実行力が落ちる
-
「共感だけ」だと目標達成まで時間がかかる
このバランスを意識し、自身の弱い部分を補強することが重要です。
全ての資質が高い場合の人は相当珍しく、特に、感情由来と俯瞰思考は相反する気質で、どちらもずば抜けて高い方は稀です。その場合でも切り分けした活用ができないとロジカル思考が機能不全に陥ってしまうのです。
一般的なロジカル思考だけで進めるとどんな矛盾が起きるのか?
詳しく見ていきましょう
限界① 知らない領域での構造誤認
一見、論理的に仮説を立てても、専門知識がない、前提構造を知らない等の場合、致命的な誤りを犯します。
例
・新規事業の市場構造を誤認し、市場規模の算定ロジックは合っていたが、対象を誤る。高い費用をかけて調査したが誤った結果で事業ごと不採算に陥る。
・技術領域での設計ミス
限界② 情報網羅には膨大な行動量が必要
論理的な判断をするには、十分な情報が必要。ただし、情報は勝手に頭に入ってこない。現場に足を運ぶ、人に聞く、調べたおす等々…非合理的で泥臭い行動量が必要になる。
例
AI(人工知能)も、学習データに偏りがあれば「ハルシネーション(誤情報生成)」を起こす。
→ ロジカルな人間も同じ。食わせる十分な情報がなければ誤った判断を下す。
限界③ 他者視点・感情要素は自己完結論理と拮抗する
ビジネスは「人」が主体。商品も人が作り、サービスも人が提供し、価値も人が感じ取って初めて対価が持続的に払われ、利益となる。そのため、他者の感情・価値観を理解し、考慮することが不可欠。
例
- 強い自己完結的思考は、他者視点と衝突しやすい
- 他者の感情や価値観に無関心だと、大きな機会損失になる。しかも、損失にすら気づきにくいため、学習も進まない
ロジカルな気質や能力があっても、それが実行されないことも
また厄介なことにロジカル思考は基盤があっても環境や状態によって発揮されないことがある
どういう場合なのでしょうか?大きく3つの観点で説明できます。
①感情(情動)がロジカル思考の邪魔をする時
人間の脳は「感情」が優先されやすい構造になっています。
(脳科学では、扁桃体(へんとうたい)が先に反応し、その後に前頭葉(論理を司る部分)が働く)
-
怒り・不安・焦り → 冷静な思考ができない
-
恥ずかしさ・劣等感 → 正論を避ける行動になる
-
承認欲求・勝ち負けへの執着 → 詭弁やごまかしが出る
→「論理力がある人」でも「その場の感情」によって発揮されない場面は非常に多いです。
②気質・性格によって発揮されにくい特性がある
- HSP(繊細な人)→ 情報過多で思考停止しやすい
- ASD傾向(自閉スペクトラム傾向)→ 自分視点に固執して他者視点での仮説が抜けやすい
- エモーショナルが強い人 → 好き嫌いのバイアスが入りやすい
③状況・環境要因による制約
-
時間がない(焦り)
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疲れている(脳のパフォーマンス低下)
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プレッシャーが強すぎる(過緊張)
これらの外的要因でも、普段ならできるロジカル思考が発揮されない場面は多いです。
ロジカルの矛盾を乗り越える行動原則
矛盾する力 | 必要な行動 | ポイント |
---|---|---|
感情 × 冷静 | 自分の感情に気づき、制御する | 目的設定と行動エネルギーを分離 |
知識不足 × 論理 | 足で稼ぐ・専門家に聞く | 非合理な行動量を許容 |
自己論理 × 他者視点 | フィードバック・対話・観察 | 自己の視点を壊す勇気 |
ロジカルシンキングは万能ではありません。
むしろ、それを正しく機能させるためには次の3つの矛盾を乗り越える必要があります。
-
感情と行動エネルギーの分離と活用
-
知らない領域への謙虚さと行動量
-
他者視点の導入と自己論理の破壊
ロジカルとは、感情と行動と他者視点という“不合理な要素”を取り込んだ上で、初めて現実世界で機能する力になるのです。
じゃあ、どうするのが本当に合理的なのか?(実践的対策)
①自分の状態を客観視する
→ 今、自分が感情的じゃないか?を一歩引いて確認する習慣
②思考の型(フレームワーク)に頼る
→ 感情に飲まれそうな時は「形式知」に逃げる
-
MECE
-
ロジックツリー
-
フェルミ推定
-
5W1H
③環境調整
→ 思考の質は「場所・時間・状況」で変わる
-
一人の時間を確保する
-
紙に書き出して整理する
-
時間制限を緩める
ロジカル思考は才能よりも「状態管理×技術」
-
誰でも「ロジカル思考ができない瞬間」はある
-
それは「気質」や「感情」「状況」の影響による
-
大事なのは「自分を客観視して調整する力」
-
そして「思考の型」を持っておくこと
論拠・参考文献
-
Daniel Kahneman (2011), Thinking, Fast and Slow
-
ロジャー・マーチン『Opposable Mind』(2009)
-
日本経済新聞『論理思考と感情知性』(2023年10月)
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◆代表プロフィール
株式会社まーけっち 代表取締役社長 山中思温
マーケティングリサーチのシステムとデータの提案営業を経験後、 最年少で事業部を立ち上げ、若年層国内ナンバーワンのユーザー数を達成。
リサーチの重要性と併せて、コストや施策への活用の課題を痛感し、中小・スタートアップでもリサーチやマーケティング施策の最適化をより手軽に利用できるようにする為、リサーチ×マーケティング支援事業の”株式会社まーけっち”を創業。
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