インタビュー
「立ち食い蕎麦放浪記」に学ぶ、広がるコミュニティ立ち上げのツボ
2021.02.24
*本記事は 高橋龍征氏のnote記事をご本人の許諾を得たうえで加筆/転載した記事となります。
高橋龍征氏との共同でセミナー企画・集客のご相談を受け付けています。
是非お気軽にお問い合わせください。
登壇したイベント会場でたまたま会った、井口さんという方から伺ったコミュニティ立ち上げの経緯が興味深かったので、私のやり口とも絡めて解説してみます。
全てのコミュニティがこれの通りできる訳ではなく、全部則っても100%うまく行くとは限らないですが、上手く立ち上がらないコミュニティは、必ずこれのどれかに反しています。
事例としてはあくまで趣味の非営利のプライベートコミュニティですが、業務上のコミュニティにも全て通じます。
※本稿は10分弱の立ち話を触媒として書き、一応本人への原稿確認はしていますが、あくまで私の考えをまとめたものです。
1.ノリで始める(ダメなら潰してもいい)
今回のお話を聞いた井口さんの友人で「秘密結社ホッピー愛飲同盟」など、くだらないFacebookグループを酔った勢いで沢山作っていた人がいました。
たまたま中野の立ち食い蕎麦屋の前で飲んでいた時、麻雀放浪記、酒場放浪記のようなのは面白いかなということで、その場でまた1つ立ち上げたそうです。
その気軽さが良いと思いました。
コミュニティなんて、人の集まりと関わりですから、誰かが意図的にコントロールしようと思っても無理です。
ほぼ同じメンツでグループを作っても、ネタのツボやタイミングなどにより、取りが自ずと回るときもあれば、ベタ凪のようにうんともすんとも言わないことも。
勿論、大原則は参加者の視点ですし、定石のようなテクニカルなものもあるけれど、あるところから先は人や時のめぐり合わせです。
「人事を尽くして天命を待つ」と割り切り、とりあえず試し、回らなければやり直すくらいの気軽なノリの方が、精神衛生上も良いかと思います。
最初に看板をかけてしまったものは変えられない、と思うかもしれません。
実際、立ち上がるまで頑張るという手もあります。
しかし、そういったものでも、内実はいくつかの種となる実質的な集まりをいくつか作り、その中で上手くいったものを名実ともに「本家」とする、というのが、現実的でしょう。
2.なじみがあり、共感できるテーマ
その場の思いつきなので、すぐ思いついた、自分が好きな「立ち食い蕎麦」にしたそうです。
まあ、誰でも分かるし、余計な議論を生まない無難なテーマなので、入りやすいしいいねしやすいですね。
蕎麦ではなく「立ち食い」にまで絞ってますから、変なマウンティングも発生の余地も無さそうです。
3.シンプルで気軽なコンテンツ
基本は自分が食べた立ち食い蕎麦の写真と情報を上げるだけ。
食べる前に写真を撮り、どこの何そばか書いて、チェックインして投稿する、以上、終了。
誰が聞いても一回で理解でき、やろうと思えばすぐ出来て、苦にならない。
よく出来た仕組みです。
考え抜いたからというより、思いつきならではの潔さ。
だいたい、あれこれ考えても人は思い通りには動いてくれません。
最初はそんなもので十分です。
どの道、人が増えれば色んな人が思いもつない「クリエイティブ」なことをし始めますから…
4.分かりやすく実行しやすい「縛り」
誰でも何しても良ければ、コミュニティとは言えません。
何かしらの趣旨があり、それに応じたヒトやコトの軸が必要です。
こんなゆるい場でも、立ち食い蕎麦が好きなことが前提です。
行動としては、基本は食べた立ち食い蕎麦の投稿であることと、投稿の際に必ずチェックインすることを課しているそうです。
5.圧倒的な、熱量・好き量・行動量
ここまでは「誰でも今すぐできる」こと。
立ち上げ初期は、その場には何もありませんので、一人コツコツと「石を積む」ような人が必要です。
このグループを立ち上げた方の友人で、今回お話を伺った井口さんが、たまたま一人でも全国のお店に行っていた程の大の立ち食い蕎麦好きでした。
その熱量をもって、どんどん投稿をしていたところ、ある時期を境に突然1日100人ペースで参加申請が来るように。
井口さんとしては、元々人に言われなくても立ち食いは日々行っており、誰かに見られたいがために投稿をしていた訳でもありません。
好きが行動の原動力となり、圧倒的な行動量が、やがて共感する人の目に触れ、それが共鳴していきました。
誰に言われずとも一人でやっていたものを解き放つ場が作られ、同じような同好の士が互いに刺激し合ったのです。
そんな、人が人を呼ぶサイクルが、一人の情熱を起点に回り始めると、急速な成長が始まります。
6.種火を起こす多様な接点づくり
オフ会などの接点作りもしました。
どういう人が、どういうツボで動き、どんな軸で繋がるかは読めない部分もあるので、色んな形式やテーマの施策を次々と、火打ち石を打つように打ち続け、運良く自走の火がついたら、そこに燃料を投じていく、というのが良いと思います。
100人に達した時に初めてのオフ会を実施し、以降100人単位でメンバーが増えたら、それを理由に飲める立ち食いそば屋探して飲み会をしたそうです。1,000人近くなると1ヶ月も掛からなくなり、1,000人毎にしたそうですが。
初期の飲み会参加者から運営メンバーが出てきたそうです。
コロナ下においてオフ会は少し憚られますが、目的は関係構築であり、オンラインでもいくらでもやれることはあります。
オンライン交流会、1 on 1のような、双方向コミュニケーションの機会や、非同期でも出来るプロジェクトなど、一緒になにかやるのも関係構築に役立ちます。
7.徹底して参加者視点に立つ
もう一つ、魂が入ってないと出来ないのが、徹底した参加者視点です。
自分がコアなユーザーなので、自分が楽しいことをやることで最初は立ち上がりますが、やがて人が増えると、徐々に色々な人が入ります。
様々な参加者のためを心から想い、考えや気持ちを考え尽くし、不安を予め取り除き、心置きなく楽しめ、問題が生じても即座に根本解決する。
とても経済合理性では割に合わないことを、少なくとも最初の内は、無私の喜びを原動力に、徹底していかなければなりません。
8.発展に合わせて仕組みも成長させる
人が増えれば場のあり方も変わります。
量的に増えればコミュニケーションの取り方なども整理しなければ混乱し、だれも声を上げなくなるでしょう。
質的にも、バックグラウンドや思惑が多様になり、それぞれのニーズに気を配る必要も出てくるでしょう。
軸のない雑多に陥らぬようにしつつ、軸を保った多様性を実現することも重要です。
スタンスの違う同士での様々な相容れない摩擦も出るので、裁定の上、仕組みで予防する必要も出ます。
一言で言えば「面倒」です。
それを上回る「好き」と「情熱」がないと、心が折れます。
9.場のために毅然と対応する
どこかのタイミングで、どうしたって話も通じない、場の心地よさや安全性を乱す人が出ます。
必ず出てきます。
主催者は、毅然と対応しなければなりません。
場のために、参加者のために。
中途半端な対応でお茶を濁せば、後で必ずより大きな問題になります。
その曖昧な対応自体、他の参加者の気持ちを冷めさせ、コミュニティの活性と成長のブレーキとなります。
こんな奴がのさばるなら行かないでおこう、と。
なので、然るべく対応しなければなりません。
そもそもが、一文の得にもならない、好きで気軽にやっていること。
なのに、なぜこんな見ず知らずの人間を相手に、怒りと不快をグッと飲み込み、こんなにも時間を使わなければならないのか。
そんな疑問が頭をもたげます。
その時に、自分が心よりその場と参加者を大事に思っていないと、とても向き合う気持ちは出てこないでしょう。
そのコミュニティが、プライベートか、業務上のものかに関わらず、です。
仕事としての義務感しかなければ、そんな面倒なことはしないでしょう。
根底の発想
上記の発想は、以下を念頭においてます。
1) 多産多死の確率論
2) 良いものを伸ばす
3) 人事を尽くして天命を待つ
4) 元気があれば何でも出来る
コミュニティの立ち上げがうまく行くかは、一定までは巧拙によりますが、それ以上は、やれることをやり切ったら、あとは巡り合わせの世界になります。
出来るまでやる、というのも一つの方法。
もう1つは、ダメならダメで気持ちを切り替え、新しいものをまた作ること。
その中から、うまく自走し始めたものを、さらに背中を後押しするのです。
動かないものを動かそうとするより、自然に動く力を内在していて自走しているものに勢いをつける方が、楽だし良い結果にもなります。
ちなみに、そんなノリで複数の場を立ち上げ運営していると、徐々にコツも掴めてくるし、あるところで起こった問題について、対処法も分かりますし、原因を突き止め、予防策を打つこともできます。
一発必中ではなく、数打てば当たる方式。
そのために、気軽に立ち上げ気軽に回せるものにする。
無駄に考え抜いたものを一生懸命頑張るより、最初から筋のいいものを、改善を高速で重ねていく方が、皮肉なものですが、結局は質量ともに良いコミュニティになってしまいがちです(勿論、程度の問題はありますが)。
とりあえず、やってみよう
別にfacebookグループをわざわざ立ち上げなくても結構です。知り合い何人か、fecebookのメッセンジャーなどでグループを作れば、最初は十分でしょう。
そんな訳で、気軽にやってみてください。
ご参考:オンラインで立ち上げたコミュニティ
よろしければ参加してみてください。
◆執筆者 高橋龍征 / Takahashi Tatsuyuki
conecuri合同会社 代表 WASEDA NEOプロデューサー 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
大手システムインテグレーターの営業、経営企画を経験後、MBAを経て、ソニー、Samsungで事業開発を中心としたキャリアを歩み、事業創造支援家として独立。インキュベーター立ち上げや欧州企業の日本進出を支援後、スタートアップ共同創業(取締役COO)を行う。
早稲田大学の社会人教育事業「WASEDA NEO」プロデューサー就任を機に、事業開発や人材育成のためのセミナーづくりを本業とし、大学、企業、メディアからの受託や自身主催で、年間200件の企画を実現するようになる。
2020年、conecuri合同会社を設立。マーケティングセミナーの企画、社会人向け講座や企業研修の開発、それらを通じた事業創造を支援している。
新型コロナを機に、セミナーを一気にオンラインにシフトさせ、その知見を『オンライン・セミナーのうまいやりかた』として出版した。
また、13年以上複数のコミュニティ運営に携わる実践家として、大手企業や学校のコミュニティづくりも支援している。
早稲田大学 第一文学部 哲学科 東洋哲学専修 卒業 早稲田大学大学院 ファイナンス研究科 修了 青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム 修了 JVCA ベンチャーキャピタリスト研修 修了
◆著者プロフィール
株式会社まーけっち 代表取締役社長 山中思温
マーケティングリサーチのシステムとデータの提案営業を経験後、 最年少で事業部を立ち上げ、若年層国内ナンバーワンのユーザー数を達成。
リサーチの重要性と併せて、コストや施策への活用の課題を痛感し、中小・スタートアップでもリサーチやマーケティング施策の最適化をより手軽に利用できるようにする為、リサーチ×マーケティング支援事業の”株式会社まーけっち”を創業。