インタビュー
【前編:変わりゆくリサーチ業界】リサーチ業界No1の代表に直撃
2020.06.18
購買履歴やアクセスログなど、行動データの量が増え、ネットリサーチや定性インタビュー調査などの必要性に変化が起きてきています。
そこで、今回は、リサーチ業界でも最大手で、売り上げも最上位、1960年の創業から国内のリサーチを率いてきた株式会社インテージ 代表取締役社長の檜垣 歩さまに、
マーケティングリサーチ業界が抱える課題と、デジタル化の進展がリサーチ業界に与える影響や将来像についてお話を伺いました。
リサーチだけではなく、マーケティング戦略における顧客理解の今とこれからについても深く考えられる内容となっているため、その観点でも必読です。
■檜垣氏プロフィール
株式会社インテージ 代表取締役社長
檜垣 歩(ひがき あゆみ)
東京大学理学部卒業
カゴメ株式会社にて主に飲料の商品開発、マーケティングに従事
代表作は「カゴメキャロット100」
1995年株式会社インテージ(当時:社会調査研究所)入社
主に、SCI再構築、i-SSP開発、R&Dなどに従事
執行役員 マーケティングイノベーション本部長を経て、
2016年取締役、2019年代表取締役に就任(現職)
株式会社インテージホールディングス取締役を兼任(現職)
1.ネットリサーチやインタビュー調査だけが「リサーチ」ではない!リサーチャーの役割とは?
「リサーチ」の定義が変わりつつある
山中:早速、リサーチ業界が抱える課題についてお聞きしたいのですが、その前に、今回のお話のなかでの「リサーチ業界」の定義を確認させてください。
いわゆる「マーケティングリサーチ会社」には、ネットリサーチやインタビュー調査の中心の会社と、データサイエンティストを使ったビッグデータ分析が中心の会社など、さまざまにありますが、「リサーチ」や「リサーチ会社」の定義や役割について、どのようにお考えですか?
檜垣:私は、そもそもネットリサーチやインタビュー調査だけを、「リサーチ」と定義してはいけないと考えています。
特に近年は、「リサーチ」の定義が、ネットリサーチやインタビュー調査にとどまらないものに変わってきていますし、変わるべきだと考えているのです。それが、ネットリサーチやインタビューなど、従来までの範囲のいわゆる「リサーチ会社」「リサーチ業界」の課題や限界にもつながってくるのだと思います。
その理由の一つが、デジタル化の進展によるものです。
デジタル化の進展によって、様々なデータが集められるようになり、そこから生活者や市場を理解できるようになりました。
さらに、キャッシュレス決済やカメラの設置に代表されるように、オフラインだったデータも、今やどんどんオンライン化されてきています。
「リサーチ」の本来の目的とは?
檜垣:「リサーチ」の本来の目的は、生活者や市場を知ることです。これからのリサーチャーは、ネットリサーチやインタビューの結果に加えて、行動データやSNSの投稿、機器のログなども、データソースとして扱うことも増えてくるでしょう。いわば、データのワンストップソリューションを提供することになります。当然、データのハンドリング能力とか、データからインテリジェンス・インサイトを引き出す力が必要です。
山中:おっしゃる通り、ネットリサーチやインタビュー調査に限ってしまうと、対象のデータも課題解決の範囲も限られてしまいますものね。
檜垣:ネットリサーチやインタビュー調査だけを、「リサーチ」と定義してはいけないもう一つの理由は、いわゆる「リサーチ会社」がリサーチのプロセスを担うだけでは、お客様である事業会社のニーズの変化に対応しきれないからです。
市場やユーザーの変化が早く、お客様自身も課題があいまいな状況で、お客様との会話から課題を引き出し、マーケティング、ひいては事業推進フロー全般を踏まえて、適切なリサーチの設計をしなければなりません。これからの「リサーチ会社」、「リサーチャー」に期待されるのは、部署や立場の異なる人々を束ねて動かす、意味のあるファクトを数多く見出すことです。
山中:これまでも、リサーチ会社が、ログデータの分析を依頼されて行うこともありましたが、現在は、マーケティングや事業フロー全般を見渡した上で必要なデータを解析することや、アンケートやインタビューなどの定性的な調査の設計までできることが求められているように感じます。
2.なぜ、ビッグデータを解析するだけではだめなのか?
山中:必要なデータを正確に集めるにも、集めてから活用するにもお金や人手がかかります。デジタル化が進みデータがますます増える中で、リサーチの考え方や技はどのように活かせるのでしょうか。
データさえあれば、「ファクト」は引き出せるのか?
檜垣:ビッグデータは偏りの塊だったり、情報が欠けていたりするので、思いのほか扱いづらいものです。 インテージは、リサーチにおけるビジネスデータの活用に取り組んでいますが、それを通じて、データを集計しただけでは物差しとしては使えないが肌身にしみて分かってきました。POSデータから、意味のあるファクトを引き出そうとするにも、全体を設計する、市場規模を推計する、商品マスターを整える、データをクリーニングするといった、リサーチの技なしにトレンドデータを観察することはできません。
檜垣:例えば、インテージでは、スマートテレビのログもリサーチに使っていますが、このログデータがそのまま全国のテレビ視聴率を表していると思いますか。
山中:シニア層など、インターネット経由でテレビを見てない人はいますよね。
檜垣:テレビを最も見ているはずのシニア層のウェイトが少ないデータは、そのままでは使い物にならないので補正する必要があります。それと、もう一つ課題があります。それは、誰が実際にテレビを見ているかわからないことです。
山中:確かに、誰が見ているかわからないままでは、広告主のマーケティング施策の改善に繋がりませんね。
檜垣:そこでテレビのログや属性情報に加えて、位置情報から誰が在宅かを推定し、系統誤差を補正することで、個人ベースで推計できました。データから正解を見出すのは、結構難しいものです。
データ活用にもリサーチの視点は不可欠だが…
「マーケティングの民主化」は始まったばかり!?
山中:リサーチは人をベースに知りたいことを明らかにして考えるものですが、その手法が、ビッグデータの活用に役立つ場面がありそうですね。
檜垣:現在の日本の個人情報のレギュレーションの下では、どれだけオンライン化が進んでも、全ての個人の情報が丸裸にされて、ひとつのエージェントに集まるとは考えづらいです。人を起点にして全体像を考えていく、リサーチの出番でしょう。
山中:しかし、現状では、データ収集の目的や収集のコストを意識しながら、データ活用やリサーチの全体像を描ける人材が不足していますよね。かなり貴重なスキルだと思います。
檜垣:デジタル化が進むと、「マーケティングの民主化」が起こっていきます。今までマーケティングという概念を持っていなかった人が、UI/UXというキーワードに反応し、データを使ってより良いUXを提供しようと考え、それが広まっていくのです。本当の意味でのUX/CXの創造といえます。
ただ、点のデータで出来ることは限られていて、データを連携して点と点をつないだとしても、分からないことが出てきます。
カスタマージャーニーを理解するにはデータとリサーチを併用する余地があると思いますが、山中さんはどう考えますか?
山中:データとリサーチの併用は段々と進んではいると思いますが、それを推進できる人材が増えていない気がします。
社内で育成して増やそうと会社もありますが、手本となるような社内人材はとても希少で忙しく、周りに教える時間が取れない。だから育成スピードも遅い。
今の日本では、営業戦略を立てる際に、人海戦術だけでなく、WEBマーケティングも考えてみようか、という意識の会社が大半なので、本当にゆっくり進む気がします。
行動データをきちんと活用し、且つ適切な手法でリサーチされている会社は、残念ながら国内ではあまり見かけません。インテージさんのほか数社でしょうか。
檜垣:ただ、今まで営業一本だった人たちが、WEBマーケティングを試みる動きがあちこちで起きているというのは重要な事実です。マーケティングの概念を使って仕事し始めたということを意味しています。
マーケティングという単語は、ともすると矮小化されたり、何か難しいテクノロジーの領域の言葉になっちゃったりしがちなところありますが、本当はそのお客様の方を見てお客様の望む便益を提供するっていう機会が、これほど増えた時期はありません。「マーケティングの民主化」が起きつつあると感じています。
3.「モノが売れない時代」のマーケティングに問われることは?
生活者の何を解決するのかが問われるようになった
檜垣:まーけっちは、リサーチを重視していなかったり、これまでマーケティングに本格的に取り組んでこなかったりといった会社にもマーケティング支援をされているとのことですが、どのような思いからでしょうか。
山中:これまでマーケティングの戦略を考えたことのなかった会社や人を、支援したいという思いからです。かつて「いい商品だから」、「いい営業だから」という理由で売れていたものが売れなくなった。一方で、もっと売れるはずなのに、何もしていないというケースもあります。
檜垣:マーケティング戦略について、ほとんど考えたことがなかった会社はありましたか。
山中:想定以上に多くて正直驚きました。笑
「今までは、有力な取引先の言う通りにできればよかったけれども、売上が伸びなくなった。」という声をよく聞きます。売上が伸び悩んで初めて、生活者に向き合わないと生き残れないと危機感を感じ、当社にご相談をいただくというケースは多いです。今や市場には良いモノが溢れています。自社の商品を買ってもらうには、かなり綿密なターゲット戦略が必要で、困っている企業が多い印象です。
檜垣:店舗ビジネスはすでに飽和状態で、ECとの競争も起きていて、役割がどんどんなくなってきています。お店が生活者の何を解決するためにあるのかが問われていますね。
山中:現在の日本の場合は特に、商品やサービスの質が高くて日常に「不」があまりないから、使うとか買うっていうのに理由が必要になります。そこそこいいものを作れば、まあまあ売れるという甘さがもうなくなってきたので、誰にどういうものを買ってもらうか考える必要がありますね。
檜垣:市場の成熟化の表れですね。商品を選ぶ側からすると、たくさんのものから何を選ぶべきかを企業から教えてくれないと困る。でもそれがしつこいと嫌なものです。
4.小さな「改善」より戦略レベルの大きなPDCAを
山中:物が売れなくて困っているのはマーケターに限りません。当社にご相談をいただくお客様の中には、事業の責任者や中小企業を経営されている方々もいらっしゃいます。ところが、お客様から課題をうかがう中で、
これまで、ユーザーにインタビューをしたことはなかったとおっしゃるケースが結構あります。
UXの改善はマーケティングのほんの一部…リサーチャーやマーケターの本来の役割とはなにか。
山中:そのようなケースでは、ユーザーリサーチをご提案すると、リサーチの効果をすごく実感されて、
「今後新しい商品を作る時にも、ぜひお願いします。」と言っていただいています。
檜垣:そのお客様は、リサーチの結果に目からウロコだったのでしょう。
リサーチの役割は、当事者にとっては未知のファクトを提示することで、アイディアを着想したり、創造性を刺激したり、意思決定を促すこと、いわば驚きを与えることです。
まーけっちのお客様が、リサーチの結果に驚かれた事例はありますか。
山中: ECサイトのリニューアルを予定されているお客様から、ユーザーテストのご相談をいただき、ユーザーテストの項目を確認すると、
ほとんどが、全体のマーケティングやWEBサイトの構造や戦略ではなく、UXのレベルでのお話でした。
UIやUXについては、テストしなくても推奨とされるものは既に世に出ているため、できる限りの改善をすればよいのです。
そこで、改善成果をさらに高められないかと、他のデータもいただいて分析してみたところ、
そのサイトは比較的特徴的なブランドがあることがわかりました。
頂いたデータの分析結果から、ブランドを前面に出した記事を掲載した方が既存顧客の購入が進むという仮説を立てて、当社からお客様に提案しました。
リサーチやインタビュー、ユーザーテストをするという意思決定は企業様でも大変なことで、
せっかく取り組むなら大きな改善に繋げたいものです。実際に、現行版サイトと改善版サイトを作って比較したところ、大きな効果を得ることができました。
檜垣:お客様は小さなPDCAに目が行きがちですが、マーケティング戦略レベルでの大きなPDCAがあるべきです。そこに山中さんが着眼するのは、生活者の目線に立っているからですね。
山中:はい。これからも「大きな改善」を目指していきたいですね。ウェブサイトのページ遷移数は少ない方がいいがといったような、調べたり、勉強すればわかることは、わざわざユーザーリサーチする必要はないでしょう。
マーケティング戦略の全体最適化が進まないのはなぜ?
檜垣:狭い意味でのUXという用語は、いわば専門用語化しています。教科書にも載っているし、改善方法もイメージがつきやすいので、お客様はUXを課題として取り上げがちなのでしょう。けれども、UXの改善と、本来のマーケティング活動とは違うものです。より大きな課題を提示するのがマーケターの役割ですし、まーけっちさんはそれを果たしていると感じます。
山中:UXを磨くことは決して小さなことではありませんが、UXとは、本来どのような定義であるべきものでしょうか。
檜垣:プロダクトを気に入っていただいて、購入していただいて、良いプロダクトだと実感して人に推奨するところまで含めて、UXでありCXであるべきです。しかし、マーケティングの民主化が進む中でUXやCXがテクニカルワードのように扱われ、意味が矮小化されてしまうのは課題ですね。
山中:大企業だと部署がプロダクトや機能別に分かれていて、ユーザー起点での捉え方ができていないことがあります。当社はインターネットサイトのプロモーションの依頼もお引き受けしますが、そのサイトでの商品購入方法がわかりづらいと気がついて改善の提案をしても、プロモーションご担当者様からは、「私の担当業務ではないので。」と断れられてしまうことがあります。
檜垣:マーケティング戦略が全体最適化されているかどうかを、俯瞰的に検証しない、あるいは検証するのが億劫なのでしょうか。細かい改善をしても寂しい効果しかないし、機会を損失してしまうのに。これも大きな課題ですね。
※中編:業界最大手の社長が伝えたい、マーケティングの本質とは?
◆戦略・リサーチにリソースが割けない!?大丈夫です!
戦略の意思決定を誤らないために、最低限重要なことだけを明確にできれば、
費用や時間がかからない簡単なリサーチでも十分です。
また、アンケートプロモーションでは、プロモーションと併せてリサーチをおこなうなど、リサーチとしてのコストをかけずに広告効果の補助として適切なリサーチ・マーケティングを行うことも可能です。
私達、株式会社まーけっちは、事業の成功に根差した、リサーチ・マーケティング支援を追及しています。
手法や戦略にご興味があるという方はお気軽にご相談下さい。
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◆代表プロフィール 株式会社まーけっち 代表取締役社長 山中思温
マーケティングリサーチのシステムとデータの提案営業を経験後、 最年少で事業部を立ち上げ、若年層国内ナンバーワンのユーザー数を達成。
リサーチの重要性と併せて、コストや施策への活用の課題を痛感し、中小・スタートアップでもリサーチやマーケティング施策の最適化をより手軽に利用できるようにする為、リサーチ×マーケティング支援事業の”株式会社まーけっち”を創業。
◎副業・フリーランス登録のご希望・相談もお待ちしています!
※ラフなメッセージ歓迎です!
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