テクノロジー
「インターネット広告代理業は何を売っているのか」を考える
2021.02.26
私が以前公開した記事、
インターネット広告業界の片隅で「事実⇒課題⇒理想⇒解決策」を長々とポジショントークをしてみた①
シリーズで最後には「手数料固定制がオススメ!」と締めさせて頂いておるのですが、手数料固定制は実現可能なのか、米国の商文化から「インターネット広告代理業は何を売っているのか」を考えてみたいと思います。
米国のインターネット広告業界のスタンダード
日本のインターネット広告代理業界は、具体数値までハッキリとはわかりませんが、体感値としては99%、いや99.9%が「コミッション制の報酬体系」、すなわち各媒体で使用した広告費の〇%を手数料として受け取る形となっています。(正しいデータわからず…すみません)
これは結構驚かれるのですが、実は米国のインターネット広告代理業界は、約60%が「フィー制の料金体系」(米広告協会:2014年)、すなわち業務内容に応じた労働ベースで報酬と受け取る形となっております。
米国もある時期までは「コミッション制」がスタンダードだった
現在では「フィー制の料金体系」が多数派である米国のインターネット広告代理業界も、元々は「コミッション制の料金体系」の方がスタンダードでした。
1986年に創業したオムニコム(Omnicom)という会社が「フィー制の料金体系」の元祖と言われています。
はたしてなぜこのタイミングでインターネット広告業界のビジネスモデルが「コミッション制の料金体系」から「フィー制の料金体系」へ切り替わって行ったのか考えてみます。
変わるキッカケは「インターネットの発展」
説明するロジックとしていくつかの切り口がありますが、ここでは広告のビジネスモデルの変遷を「需要と供給」に焦点を当てて進めてみたいと考えています。
「広告」というビジネスが、世界に生まれたのは1800年あたりですが、それから約200年、様々な媒体が生まれました。
①マスコミ4媒体広告(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)
②インターネット広告
と分類できますが、その全ては、
需要側:広告主|広告費
供給側:媒体|広告枠
のバランスで料金が定められます。
インターネットの発展の前の時代では、広告媒体として、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などが主となります。
・放送電波や配送ネットワーク、印刷製本などが必須で参入障壁が高い
・プロデューサー、クリエイティブ、セールスと関わる人が多い
・総合系の代理店が一括して広告枠を購入し、販売を代行する
・広告枠は「限定的」で「希少」、需要が拡大すると値上がりする
インターネットの発展以降の時代では、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などとは違った特徴が現れます。
・初期段階では、WEBサイトも昔はサーバーを自分でたてて、html 、cssなどの専門的な知識がないと、自分でメディアを作ることができない
・現在では、ブログ、SNS、CMS(※Contents Management System、コンテンツ管理システム)や、CGM(※Consumer Generated Media、消費者生成メディア)の仕組みによって、専門知識がなくても、誰にでも、自分のメディアを作ることができる
・テレビや新聞の比較すると、広告枠は指数関数的に増大する
・広告枠自体は無尽蔵に増えているので価値が減退し、「広告表示回数やクリックなど」が購買の単位でとなり、必要な分だけ購入できるようになった
ここまでを整理すると、
上記からわかるように、
①マスコミ4媒体広告(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)
②インターネット広告
で「需要と供給」も「購入の仕組み」全く違ってきます。
インターネット広告代理店は、無数にある選択肢の中から、
以下の項目を軸に改善活動を行うことになります。
「目標達成を目指して」
「誰に何をどのように伝えるか」
「必要な分だけ購入する」
ここでインターネット広告代理店が「何を売っているのか?」を考えてみたいと思います。
インターネット広告代理店は、何を売っているのか?(コミッション制の場合)
まずはインターネット広告代理店が行っている業務を分割してみますと、下記のようになります。
1.戦略・企画
2.リサーチ・シミュレーション
3.施策設計
4.クリエイティブ・制作
5.メディア購入(運用)
6.分析
「コミッション制の料金体系」において、「インターネット広告代理店は何を売っているのか?」というと、主たる算出方法が、各媒体で使用した広告費の20%となるので、
1.戦略・企画│無料
2.リサーチ・シミュレーション│無料
3.施策設計│無料
4.クリエイティブ・制作│制作費の20%
5.メディア購入(運用)│広告費の20%
6.分析│無料
よって「戦略・企画、リサーチ・シミュレーション、施策設計、分析」は無料のサービスであり、その分のコストは「メディア購入│広告費の20%」内でまかなっているといえるのではないでしょうか。
インターネット広告代理店は、何を売っているのか?(フィー制の場合)
「フィー制の料金体系」において、「インターネット広告代理店は何を売っているのか?」というと、主たる算出方法が、業務内容に応じて算出することなるので、
1.戦略・企画|実務工数ベース
2.リサーチ・シミュレーション|実務工数ベース
3.施策設計|実務工数ベース
4.クリエイティブ・制作|実務工数ベース
5.メディア購入(運用)|実務工数ベース
6.分析|実務工数ベース
実際には「戦略・企画、リサーチ・シミュレーション、施策設計」の一部は「シミュレーション作ってください!」のような形で契約前に無料のサービスとして提供されることが多く、そのコストは契約後の「実務工数ベース」の費用に均していく形となっていると考えられます。
インターネット広告代理店のビジネスモデルのこれから
日本では「広告購入費用の利率(コミッション型)」が業界のスタンダードとなっており、各社の差別化ポイントは、
①値下げ|コミッション率の割引(25%から20%、15%、10%へ)
②追加サービス|ランディングページ、バナーや動画などの無償作成
となっている場合が多いです。
インターネット広告業界の片隅で「事実⇒課題⇒理想⇒解決策」を長々とポジショントークをしてみた①
シリーズに書かせて頂いたように、ビジネスモデルの中で報酬部分が、大きくその事業体と各担当者の意思決定に大きく関わってきます。
インターネット広告代理店の在り方を
「広告購入費用の利率(コミッション型)」
「広告費の金額に応じた定額制(コミッション・テーブル型)」
「業務遂行工数算出(フィー型)」
「収益分配(レベニューシェア型)」
「株式配分型(エクイティ型)」
「上記複数の組み合わせ(ハイブリッド型)」
と多様な在り方を、選択肢を「市場」に並べることで、
広告主側が「事業」と「組織」の観点で、
・そのサービスはニーズが顕在化しているか?否か?
・そのサービスは市場の代替え品か、全くない新しいものか?
・その事業は先行投資型か、収益化が見えているか?
・自組織でどこまで戦略・企画を実務手前まで具体に落とせるのか?
・インターネット広告に関わるデータをどこまで自社で保有したいか?
など、状態や状況に合わせて、パートナーを選べるようになれば良いのに…と考えております。
あらゆる期待に応えることはできませんが、私なりの答えを探していきたいので、もし本領域に前衛的な方がおりましたら、お時間頂けますと幸いでございます。
◆執筆者 株式会社ワンチーム 谷田脩一郎
化学、食品、人材、機械、メディア、公益財団法人と様々な業界でセールス、マーケティング、事業開発を経験。インターネット広告業界の中小企業や、スタートアップ、NPOなど、フェーズに合った最適なサービスを受けられない構的課題を解決するため、株式会社ワンチームに参画。
デジタルマーケティングのコンサルティング、企業向けの研修、大学生向けの育成事業など行う。
◆著者プロフィール
株式会社まーけっち 代表取締役社長 山中思温
マーケティングリサーチのシステムとデータの提案営業を経験後、 最年少で事業部を立ち上げ、若年層国内ナンバーワンのユーザー数を達成。
リサーチの重要性と併せて、コストや施策への活用の課題を痛感し、中小・スタートアップでもリサーチやマーケティング施策の最適化をより手軽に利用できるようにする為、リサーチ×マーケティング支援事業の”株式会社まーけっち”を創業。