飲食店マーケティング:なぜ飲食店の倒産は増え続けるのか【前編】

帝国データバンク社が発表した2000年から2019年までの飲食店事業者の倒産件数データから、2000年に入ってからまず和食や食堂の倒産件数が多めに推移し、リーマンショック前後の時期に酒を飲ませる業態の倒産件数が増え、そして2015年以降は西洋料理店の倒産件数が増え始めていることが把握できる。
なぜ、飲食店の倒産が増えているのか?飲食店事業の失敗を防ぐにはどうすればいいのだろうか?
飲食店経営と飲食店マーケティングのプロがポイントについて詳しく解説する。

2000年から2019年までの飲食店事業者の倒産件数データ


(出典:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p191204.pdf)

 なお、表の右端の「年換算した場合」の列については、発表された数値に私が修正を加えた。2019の数値÷11×12=年換算した場合 になっているのだが、発表されたデータでは小数点以下1位で切り捨てされていたので、正確性を保持するために私が計算し直したものである。

飲食店マーケティングのポイント【1】 データから飲食店事業の動向を正確に読み取る

 まず、分析者がデータを読み込む際に重要な条件として、このような原始データを手に入れること。また、なるべくデータの欠損等を無くすこと。この2つは抑えておきたい。

 次に表2は構成比を算出したものである。これだけでも傾向がだいぶ見えるようになる。そして、このデータでは扱われていないのが残念だが、母数を把握しておくと良いだろう。すなわち、酒場・ビヤホールの2019年の143件というデータは、何千あるいは何万軒のうちの143件なのかを把握すると、全体像がより深く理解できることに繋がる。

 さらに、表2のデータから私の判断でカテゴリーを設定して、構成比の合計を算出したものが表3になる。こちらを見ると、2000年に入ってからまず和食や食堂の倒産件数が多めに推移し、リーマンショック前後の時期に酒を飲ませる業態の倒産件数が増え、そして2015年以降は西洋料理店の倒産件数が増え始めていることが把握できる。

 良いデータは「与えられた原始データに簡単な加工を行なうだけで新たな知見を得られる」ものだが、本データはその好例であると思うので、このあたりも本文において触れていけたら良いと思う。明確で公正なデータを長年蓄積している帝国データバンク社には敬意を表したい。

飲食店マーケティングのポイント【2】 マーケティング担当者が意識すべき「日本の市場の特徴」

 さて、本題に移ろう。なぜ飲食店の倒産は増え続けるのか。
 マーケティングを生業としている方々が常に意識に置くべき「日本の市場の特徴」に、各年代別の人口構成がある。これはどのような分析をする場合にも、また商品やサービスの企画をする場合にも必ず強く影響してくる部分であるので、意識して頂くと良いだろう。

 ここまで申し上げれば想像がつくと思うが、飲食店の倒産件数の背景には、事業者が高齢化し、それまで自転車操業で何とか繋いできた事業が継続できなくなった現実がある。資金が尽きるのも、もちろん倒産の主要因であると想定されるが、体力や気力が尽きるのも要因としては大きい。なので、がっかりされないで欲しいのだが「倒産が増えているのは事業者が高齢化したから」というのは決して無視できない大きな理由の一つになる。

 それが判りやすく表れているのが2000年代前半に和食業態の飲食店の倒産が多かったことと、ここ5年ほどの間に西洋料理店の倒産件数が増えてきたことにある。例えば経営者が60代で事業の継続を断念したと仮定した場合に、2000年代前半に和食業態を倒産することになった人たちは1940年あたりに生まれた方々で、2015年以降に西洋料理業態を倒産することになった人たちは1955年あたりに生まれた方々という計算になる。


飲食店の倒産件数に影響を与えているのは何歳の層?

 日本において和食業態は言うまでもなく戦前から存在していたが、西洋料理店が増えてきたのは、高度経済成長期を経た1970年代であり、現代の若者に言ってもなかなか信じてもらえないが、筆者が生まれた1970年代は、街でスパゲッティやピッツアを食べることができる店はほとんど存在しなかった。フランス料理店は存在するものの気軽に利用できるものとは言い難く、ビストロなどが登場したのは、1990年代に入ってからと言っても過言ではない。(もちろん地域差はある)

 すなわち、2000年以降の倒産件数に事業者の年代がある程度の影響を与えているのは想定できるというのが私の見解である。

 加えて、食の世界の原則は「おいしい」「たのしい」あたりをどのように的確に提供することができるか。そこに尽きると言えるのだが、変化に対応するスピードは事業者の若さにある程度関連がある。自分が年齢を重ねるとつくづくそれを思い知る。

 また、外食チェーンストアに成長した場合を考えてみると、某チェーンに限らず「安い」「速い」などのクオリティやサービスのバランス。クレンリネスと称される店内環境の居心地の良さ。そして訪問しやすい立地であるかという商圏の問題などに帰結する。こちらも経営陣が世の中の変化にどれだけ早く対応するかが問われるものである。

 これらの原則は、おそらくこれから何十年経過しても大きく変わることはないと考える。

 食文化が移り変わっても、経営者の世代が変わっても、そこは不変であると思う。原理原則が不変であるのに、なぜ倒産は増え続けるのか。その謎を解くために栄枯盛衰の激しいラーメン屋の業界について触れてみたい。

 

飲食店マーケティングのポイント【3】 ラーメン屋はなぜたくさん潰れるのか?

 情報源によってバラつきはあるが、日本には3万軒あまりのラーメン屋があるようだ。ラーメンを提供する飲食店(食堂など)を含むと、5万軒を超える数にのぼるようである。中華料理の中華そばに発端を持つ「ラーメン」は日本の国民食と呼ぶに相応しいメニューであり、それを専門的に提供するラーメン屋という業態は熾烈な競争を繰り広げている。

 そのラーメン屋がとにかくよく潰れるのである。(閉店している姿が目立つ)

先述したデータにおいて、法人化された事業者だけが「倒産」としてカウントされるのかどうか、そこは定かではないのであるが、肌感覚で言えば、毎週全国のどこかでラーメン屋がひっそりと廃業しているというイメージである。

 私の友人のラーメン評論家が書いているブログ「ら~マニア共和国」において、新店と閉店の情報は詳しく書かれているので参考にして頂きたい。とにかくよく潰れている。(参考:https://ameblo.jp/ramania/

 このブログを書いている方とは別に、日本で一番多くのラーメンを食べたラーメン評論家も私の友人にいるのだが、彼と飲食店経営について少し話す機会があった時に私が言った内容を彼は否定しなかった。

「ラーメン屋って芸能人みたいなもんですよね」

 これはラーメン屋を実態の無い稼業として貶めているものではなく、とにかく人気に左右されてしまって本来の実力と事業が成功するかどうかの間の相関性が低いという意味である。

 もちろん、人気のあるラーメン屋はたいてい「おいしい」と私も思う。おいしさは主観的な評価であるので、そこに絶対的な指標は無いとは思うけれども、一般的に「おいしくない」とされる店は繁盛していない。なので「おいしい」ことは繁盛する条件の1つであることは間違い無い。しかし「おいしいのに繁盛しない」という店が、繁盛している店の何倍も存在して、そして静かに閉店していっているのである。

 この記事を読まれている方々は少なからずマーケティングに興味をお持ちの方だと思われるので、マーケティング分野からこの事実を見た場合に、おいしいものがそこに在るという事実を、それを欲する消費者に上手に伝えられていないから、繁盛せずに閉店してしまう。ということにお気づきになるはずだ。
 ただし、この「おいしさを伝える」という行為が実に難しいのであるが。
 (おいしさを伝える技術については別途執筆させて頂きたいと思う)


飲食店マーケティングの難しさ:おいしいだけじゃ流行らない。「おいしい」という文言を使用した瞬間に私はクリエイターとして負け

 食の世界で広告宣伝物を制作する場合に「おいしい」という文言を使用した瞬間に私はクリエイターとして負けだと思う。それぞれで尺度の違う「おいしさ」という感性的な言葉は、食を褒める時に最もありふれていて凡庸な言葉であり、それをキャッチコピーに使ってしまうのは無しだろう。そう思うのである。

 まさにこの部分においしさを伝えることの難しさの本質が隠れている。

 どうやらラーメン屋はおいしいだけじゃ流行らないのである。
 何か特徴的な要素が1つと言わず、2つ3つ加わり、さらに実際にお店で味わった消費者がSNS等でそれを上手く表現して、発信者の情報に共感を得た受信者がお店を訪問するところまで到達して、はじめて繁盛することになる。だとすると、おいしさはスタート地点として重要ではあるが、繁盛するかどうかの分岐点は、むしろ次の段階の「伝えやすい特徴的な要素が存在するか」にかかっているのではないだろうか。
飲食マーケティング 

 例えば2つのキャッチコピーを並べてみる。

【日本で一番おいしいラーメン屋が誕生しました!】

【日本で一番味噌とニンニクがきついラーメン屋が誕生しました!】

 我ながら下手なキャッチコピーだと思うが、事例ということでお許し頂きたい。

 繁盛するのはどちらか。答えは言うまでもなく後者である。
 日本一おいしいという表現は胡散臭い印象とともに、結局どういう味なのかどういうラーメンなのか想像できないという部分が欠陥である。

 一方で、日本一味噌とニンニクがきついというのはその部分が非常に明確で、少なくとも、味噌やニンニクが好きというコッテリ系のラーメンが好きな消費者にとっては一度試してみたい味であることが伝わるだろう。

 そう。すなわち「おいしさを伝える」というのは、実は「どんな中身か伝える」ということで、それをおいしいと感じるかどうかは消費者との相性の問題ということになる。そこを私は「芸能人みたいなもの」と表現し、業界を熟知する専門家から一定の共感を得たということになる。

 様々な要因はあるとは思うが、飲食店にとって「おいしさ」は重要な要素であり、まずそれが伝わっているかどうかが運命の分かれ道。そのように考えて、初回では取り扱ってみた次第である。

 初回の投稿からかなり長くなってしまったので、ここまでを前編として、後編では飲食店が大量発生する社会背景や創業者の意識、そしてマーケティングが機能する場面について触れていきたい。

マーケ屋必見!!最強リサーチテンプレート&ノウハウを無料プレゼント!