戦略・事業
ストーリーを活用した競争戦略で強い経営を生み出す方法|Amazonによる事例まとめ
2021.05.25
ビジネスを成長させるためには、他社と比べて競争優位を持つことが重要。
本項では、競争戦略におけるストーリーマーケティングの有効性について解説。市場において他社と競争優位に立つためには、ストーリーを活用したマーケティングが有効です。
ストーリーを確立することは、顧客にとってブランディングについて強烈なインパクトを与えることとなります。顧客を惹きつけるようなブランドを作成するのに、ストーリーは必要不可欠です。
Amazon、スターバックス、ガリバーインターナショナルなど、ストーリーマーケティングの成功事例と共に解説していきます。
『ストーリーとしての競争戦略』という名著と共に、市場競争におけるストーリーマーケティングを見ていきましょう。
『ストーリーとしての競争戦略』とは
『ストーリーとしての競争戦略』は2010年に発売された経営学に関する書籍。
経営本でありながら、異例の20万部を発行した本著は、初版から10年が経った今でも多くのマーケターに読まれている、マーケティングに関わるビジネスマンであれば必携の書籍です。
マーケティングの基本となる競争戦略に関する情報を本著では学ぶことができます。
競争戦略におけるストーリーの活用
本著では、競争戦略をストーリーを用いて解説しています。優れ競争戦略には優れたストーリーがあります。
ストーリーを用いたマーケティング戦略のことは「ストーリーマーケティング」といいます。
戦略をストーリーに見立てることにより、顧客の関心を惹き、ブランド戦略を確立するのです。
『ストーリーとしての競争戦略』の紹介
『ストーリーとしての競争戦略』は全7章の構成から成ります。
ストーリーマーケティングの基礎的な事項から、競争戦略における基本論理について、実際にあった企業の成功事例と共に見ていきます。
見出し紹介(7章構成)
本書では7章から構成され、基本論理から成功事例と共にストーリーマーケティングの成功事例を学べます。
構成内容としては、以下の通りです。
- 第1章:戦略は「ストーリー」
- 第2章:競争戦略の基本論理
- 第3章:静止画から動画へ
- 第4章:始まりはコンセプト
- 第5章:「キラーパス」を囲い込む
- 第6章:戦略ストーリーを読解する
- 第7章:戦略ストーリーの「骨法10か条」
引用元:『ストーリーとしての戦略競争』より
書評
本書はマーケティングにおける入門書として、多数の読書から好評を得ています。
全部で500ページ超というボリュームですが、軽快な文章と豊富な事例と共に語られており、初学者にも読みやすくなるように工夫されています。
書評について、一部見ていきましょう。
分厚い本であるが、軽快な語り口で惹きつけられた。 ボリュームを感じることなく読み進めることが出来た。 |
ブランド戦略における「ストーリー」の重要性を認識した。 |
競争戦略において、生き残るうえで何が重要になるかを理解できた。 |
著者紹介:楠木建
著者の楠木建氏は日本の経営学者で、一橋大学大学院の教授。
「競争戦略」と「イノベーション」を専攻しており、著書『ストーリーとしての競争戦略』はビジネス書大賞を受賞。
企業が持続的な競争優位を構築する論理についての研究を行っています。
ストーリーと競争戦略
競争戦略に勝ち残るためには独自性を持つことが重要。
すなわち、「誰にも真似できないサービス」を提供することが競争戦略で優位に立つのに求められます。
誰にも負けないサービスを作ることで、自社特有のサービスを提供することが可能です。独自のサービスを生み出すためには「ストーリー」という観点からブランディングを働きかけることが重要です。
では、誰にも負けないサービスはどのようにして作り上げられるのでしょうか。詳しくみていきましょう。
現実のビジネスで「ストーリー」を活用する
ストーリーは机上の空論ではなく、実際にビジネスで活用できるものでなければなりません。
マーケティング戦略は市場の需要によって変動するものであり、競争戦略は常に市場の需要に即した形で行う必要があるのです。
現実のビジネスで有効に活用できるモデルとはどのようなものでしょうか。
ストーリーとしてのブランド戦略
ストーリーを活用したマーケティングのことを「ストーリーマーケティング」といいます。
ストーリーマーケティングにおいては、ストーリーを活用して顧客にサービスをPRします。
ストーリーを活用してPRをすることで、顧客に対してサービスのイメージを明確にすることが可能になるのです。
優れた戦略ストーリーとは
『ストーリーとしての競争戦略』においては、戦略ストーリーの合理性について以下のマトリックスで表現可能です。
戦略ストーリーにおいて重視したいのは、「部分的に見れば非合理であるが、全体的に合理である」という点。
本著では、これらの特徴は「賢者の盲点」と呼び、賢者の盲点として特徴を持つマーケティング戦略は「クリティカル・コア」あるいは「キラーパス」と呼ばれます。
こういった賢者の盲点に着目することが、競争戦略を進めるうえで必要です。
– | 部分合理 | 部分非合理 |
全体合理 | 全体合理×部分合理 =普通の賢者 |
全体合理×部分非合理 =賢者の盲点 |
全体非合理 | 全体非合理×部分合理 =合理合理的な愚か者 |
全体非合理×部分非合理 =ただの愚か者 |
賢者の盲点を活用する
『ストーリーとしての競争戦略』では、優れた戦略は「賢者の盲点」を重視していると説きます。
賢者の盲点とは、部分的に見ると非合理であるが全体的に見ると合理的であるものを指します。
例えば、コスト面という観点から見ると高コストで非合理であるものの、全体の観点から見ると利益を生み出して合理的であるという事象です。
部分的に見ると非合理であるため、戦略としては独自性を持ちます。非合理性だけを模倣しても全体としての合理性は模倣できません。
クリティカル・コアによる競争優位
本著では賢者の盲点による戦略のことを「クリティカル・コア」と呼んでいます。
クリティカル・コアとは、一見非合理であるが、総合的に見ると合理性を持った戦略のこと。
短期的に見れば企業が損をしてしまうような案件でも、長期的に見れば企業に大きな利益をもたらす案件はクリティカル・コアであるといえるでしょう。
模倣できない戦略
クリティカル・コアの優れた点は、競争力を持っており、競争他社から模倣されない点です。競争市場においては、競合他社は積極的に成功者のノウハウを模倣しようとします。
しかし、クリティカル・コアを持つ企業の戦略は簡単には模倣できません。
何故ならば、クリティカル・コアのビジネスモデルは長期的なスパンで戦略立てなくてはならず、小手先のテクニックでは真似できないからです。
小手先のテクニックでクリティカル・コアを模倣しようとしても、部分的に非合理的な部分しか模倣できず、企業の戦略としてはイマイチです。
戦略としてタフなクリティカル・コアを作ることが他社と差別化をはかるうえで効果的といえるでしょう。
このように、自社に競争優位を生み出し、他社から模倣されにくい戦略モデルを作ることが競争優位な戦略であるといえます。
「キラーパス」を組み込む
賢者の盲点の代表的な例として挙げられるのが「キラーパス」。
マーケティングにおけるキラーパスとは、外部から見えない利益を生み出す源泉のこと。
「損して得を取れ」というように、一見すると損するようなことでも最終的に得をするようなビジネスモデルです。
外部から見えない源泉であるため、他社から模倣されることは中々ありません。目に見えた戦略だけでなく、企業が利益を生み出すキラーパスであることが重要です。
キラーパスを作るために重要なのが、ストーリー戦略。
体系だったストーリー戦略を立てることによって他社から模倣されにくい魅力的な競争戦略を展開することが可能です。
ストーリーによる競争戦略の経営事例
『ストーリーとしての競争戦略』においては「優れた競争戦略とは、他人に思わず話してしまいたくなるようなストーリーである」と説きます。
世界的にも有名な企業であるAmazon、スターバックス、ガリバーインターナショナルを例にして、実際に成功した事例としてストーリーによる競争戦略がどのように活用されているのか見ていきましょう。
Amazonにおける事例
Amazonは世界的なECサイト。Amazonを利用することにとって世界中どこに居ても気軽に欲しいものを注文することができます。
Amazonで買い物をした顧客は、Amazonの便利さを体験することによって評判を向上させていきます。
「Amazonが便利である」といったストーリーは顧客から別の顧客へと波及していき、次々と新しいユーザーを惹きこむのです。
Amazonにおいては物流面で強烈なクリティカル・コアを利用した戦略がとられています。具体的に見ていきましょう。
Amazonのクリティカル・コア
Amazonにおいて、クリティカル・コアは「巨大な物流センター」にあるとしています。
AmazonのようなECショップは物流コストを削減することが合理的でしょう。しかし、あえて巨大な物流センターを抱えることで顧客にとってスムーズな物流配送を可能としています。
短期的に見れば物流コストがかさんでも、「Amazonは便利である」というストーリー、ブランディングを構成することで顧客が寄り付き、利益に繋がるクリティカル・コアです。
非合理ともとられる物流コストによって合理的にブランド戦略を確保するのが、Amazonのストーリーマーケティング。Amazonにとっての巨大な物流センターはクリティカル・コアであり、競争力の高い戦略を生み出すのです。
スターバックスにおける事例
スターバックスはコーヒーチェーン大手。アメリカ発のチェーン店ですが、日本でも多くのチェーンが展開されており、私たちの生活にも馴染み深いショップです。
スターバックスが他店に比べて競争優位を持っているのが接客の良さや店舗の雰囲気。
スターバックスにとってこれらのブランドは自社独自の強みですが、こういった強みもスターバックスにおけるストーリーマーケティングといえます。
独自戦略を活用することで競争戦略で勝ち残っているのです。
スターバックスのクリティカル・コア
スターバックスでは、店舗をフランチャイズ制ではなく直営方式によることによることを強みとしています。
戦略の独自性を保つ「賢者の盲点」を店舗の直営方式としているのです。
通常、チェーン店展開はフランチャイズ制によることがほとんどです。
一方で、スターバックスでは店舗の9割近くが直営による運営をしています。
直営という形態をとることで、各店舗に充実したサービスを行き届けることが可能になり、ブランド戦略に繋げることが可能になるのです。
直営方式は管理コストがかかるため、利益面だけで見ると直営でチェーン展開するというのは非合理です。
しかし、他店に真似できないサービスという独自性を持つことで競争戦略で優位に立ち、利益をあげています。
非合理な戦略で合理的に競争に勝ち残ることが、スターバックスのクリティカル・コアであるといえるでしょう。
ガリバーインターナショナルにおける事例
ガリバーインターナショナルは中古車の販売をメインとする自動車の販売会社。
中古車販売店「Guliver(ガリバー)」を中心に事業を展開しています。2016年に商号を「IDOM(イドム)」に変更。
ガリバーインターナショナルのクリティカル・コア
ガリバーインターナショナルにおいては、中古車の販売に専門を置いています。
中古車の販売に特化することにより、在庫コストや在庫リスクから解放。
低コストに特化することが、同社のクリティカル・コアであり、競争優位であるともいえるでしょう。
ストーリーを制して競争を制す
競争戦略におけるストーリーの優位性を見ていきました。
市場における競争に勝ち残るには、ブランド戦略が重要。
ブランドを確立するためには、ストーリーによって顧客を惹きこみ、自社製品に対するアプローチを上げることが有効です。
顧客を惹きこむためには、「賢者の盲点」に着目した競争戦略が有効。
部分的には非合理であるものの、全体的に合理的であるというサービスは独自性が強く、他社から模倣されないため競争力の高いサービスを作り出すことができるのです。
『ストーリーとしての競争戦略』はストーリーという観点から競争戦略に勝ち残すためのロジックが記載。
マーケティングを担当している方であれば必須のビジネス書でしょう。
ストーリーマーケティングという観点から競争戦略を勝ち残り、ビジネスの成長に役立ててください。