「抽象度」を上げて成功率を上げる/VOYAGE GROUP宇佐美氏 インタビュー(中編)

事業を成功させるコツは、どこにあるのか?

数々の事業を成功に導いてきた、株式会社VOYAGE GROUP代表取締役社長兼CEO、CARTA HOLDINGSの代表取締役会長の宇佐美進典氏に、新規事業を成功させるコツについて、お話を伺いました。

前編では、「失敗の活かし方」「組織を成功に導く「情熱」の生み出し方」など、新規事業の核となる部分について色々とお話を伺えました。
中編では、より具体的な話に踏み込んでまいります。



宇佐美 進典氏

VOYAGE GROUP  代表取締役社長兼CEO 宇佐美 進典氏

早稲田大学卒業後、トーマツコンサルティング(現デロイトトーマツコンサルティング)などを経て、1999年にアクシブドットコム(現・VOYAGE GROUP)を創業。2005年〜2010年までサイバーエージェントの取締役も兼務し、メディア部門副統括・技術部門担当役員としてアメーバの成長等に携わり幅広く経営の実務を経験する。2010年からはVOYAGE GROUPの成長にフルコミットし、2014年東証マザーズ上場、2015年東証一部上場。直近ではCCIとの経営統合により発足したCARTA HOLDINGSの代表取締役会長に就任。


やることよりもやらないことが失敗として大きい

山中 : 失敗といってもさまざまありますが、よく言われる失敗ではなく、見落とされがちなものはありますか?

宇佐美 : 例えばやってみて失敗したっていうのはそんなに大きな失敗ではなくて、やらなかったことの失敗のほうが大きいですよね。

山中 : どういうものがありますか?

宇佐美 : 例えば、さきほどの「採用をもっと力入れてやるべきだった」ですね。
「“やった”失敗をもっとよくすれば、こうすればよかった」というには個別具体的なアクションや戦術レベルの失敗ですよね。これはカバーできます。
ですが、それの上位の考えである全体的な戦略部分の失敗はリカバリーできないですよね。

これは難しいかもしれませんが、もっと早く撤退すればよかったのに、引きずって半年や1年続けてしまったというのは、やった失敗とやらなかった失敗のどちらだと思いますか?

山中 : 「やらなかった失敗」ですか?

宇佐美 : その通りです。「もっと早く意思決定すべきだった」という“やるべきこと”をできなかったんです。つまり、やらなかった失敗なんですよね。

成功

山中 : 主体的に決めるという行為ですね。やったことによる失敗が重要でない理由はあるのですか?

宇佐美 : 重要でないというよりも、プロセスの話だからです。
通常は行為の途中でPDCAサイクルを回しますよね。連続したプロセスがある中でPDCAサイクルを回し続けることで、最初はうまくいかなくてもかまいません。最後にうまくいけば、プロセスはあまり重要ではありませんから。

山中 : やったこと、それ自体が間違っていることはありませんか?

宇佐美 : 自分たちの実力以上のことをやろうとして、うまくいかないみたいというのは多いですね。
技術力や営業力といった様々な判断基準はありますが、それらが市場や自分たちに合っているかどうかは見極めなければなりません。

例えば、検索エンジンを作ることです。Googleと比較して、自分たちの実力でそんなに良いものできるの?と。ニーズも市場もありますが、実力以上のものを求められますよね。


シンプルに考える

山中 : そうですね。では、市場と自分たちの実力を把握するのにコツはあるのでしょうか?

宇佐美 : シンプルに考えることです。他よりいいものをと考えてしまい、複雑な戦略と複雑な市場を考えてしまう人が多いですよね。ですが、戦略も市場もシンプルに考えたほうがいいんです。
シンプルな課題に対して、シンプルに解決して、シンプルに組織も設計されていると組織マネジメントもしやすくなります。
そして、結果も出やすくなる、目標設定もしやすくなる、ということが起こります。何をやったら何が動くのか可視化されていると組織が大きくなっても一体感を維持しやすくなりますよね。
ですが、複雑になってしまうと、何をやればいいのか、本人も部下たちもわからなくなってきます。

山中 : 複雑というのは、どういう状況ですか?

宇佐美 : 関係者が多くなるのも一つです。
会社に経営理念とかビジョンが必要だっていうのも同じですよ。
経営理念やビジョンがあると、いろいろなものがシンプルになるんです。
その組織の行動原理や方向性がわからないということにならず、シンプルな形でコミュニケーションをしやすい状態に持っていくことができます。
逆に考えると、シンプルになるとトップが指示しなくても、勝手に最適な方向へ動いてもらうことができます。

山中 : なるほど。ボヤージュだと理念として「360°スゴイ」とかありますよね。

宇佐美 : 弊社の理念の場合は、共感なので少し話が違ってきますね。どちらかというと、クリードという社員の行動規範のほうが今の話に合致します。こうやって考えようと、あらかじめ決めておくんですね。つまり、行動原理でシンプルにしています。


「理念」や「行動原理」を決める上で注意するポイントとは?


山中 : 「行動原理」を明文化することで、どのような効果があるのでしょうか?

宇佐美 :経営者は良くも悪くも朝に言ったことと夕方に言ったことが違うということが、よく起こります。ですが、経営者の中だけでいうと、全てに一貫性があるんです。

山中 : どちらの立場の気持ちもわかります。
改善に向けて常に思考や挑戦を繰り返している経営層こそ、「朝令暮改」が増えると聞きます。

しかし、現場で、指示を受けたり、情報を受け取る側からすると「話がすぐにひっくり返る」と受け取られかねない。背景や意図の確認のために聞きにいくこと、それ自体が手間やコストにもなりますよね。特に、組織が大きくなってくると起こりがちですよね。

宇佐美 : だから、会社として、事業として、シンプルに何を重視していくのか決めておくのが大事になってくるのです。
この部署は何を求めていくのかを全部シンプルにすることで、例外を極力減らしていくと一貫性を保ちやすくなり、成長が促せるようになります。

山中 : できるだけ抽象度を下げてわかりやすくするほうがいいのでしょうか?

宇佐美 : むしろ逆で、抽象度を上げるほうがいいですね。あくまで僕の持論ですが、原理原則を明確にして例外や条件分岐を極力減らすということです。

山中 : 組織や事業の成長速度を最大化するうえで、組織として重視することを決めておき、わかりやすく伝わるように明文化しておくということも大事にしないといけないんですね!

ー続きは「後編:組織に向いていない事業はNG!見極める秘訣とは?」にて

宇佐美 進典氏

VOYAGE GROUP  代表取締役社長兼CEO 宇佐美 進典氏

早稲田大学卒業後、トーマツコンサルティング(現デロイトトーマツコンサルティング)などを経て、1999年にアクシブドットコム(現・VOYAGE GROUP)を創業。2005年〜2010年までサイバーエージェントの取締役も兼務し、メディア部門副統括・技術部門担当役員としてアメーバの成長等に携わり幅広く経営の実務を経験する。2010年からはVOYAGE GROUPの成長にフルコミットし、2014年東証マザーズ上場、2015年東証一部上場。直近ではCCIとの経営統合により発足したCARTA HOLDINGSの代表取締役会長に就任。

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