【スタートアップ必見】資本政策の基本とその対策方法~

石川裕也

株式会社をいざ設立し、自分の事業に集中したいけれどどうしても付きまとう資本政策。原則やり直しがきかないため、複雑にもかかわらず絶対に失敗してはいけないポイントです。今回は危機管理コンサルタントの石川裕也さんの実体験をもとに資本政策の基本とリスクヘッジの方法を紹介したいと思います。

 

資本政策とは

株式会社が資金を調達する方法は、金融機関・公的機関から融資を受ける、会社の資産を資金に変えるなどありますが、株式の発行が最も一般的です。株式による資金調達は返済をする必要がありませんが、株式会社は株主のものである以上むやみに渡すと後の経営に大きな影響を及ぼすので注意をしなくてなりません。このように「調達する資金」と「株主構成」のバランスを取りながら、適切な資本規模を決めることや株の発行をすることを資本政策と呼びます。

特にイグジット(IPOやM&A)を目指す企業なら綿密な事業計画に基づいた資本政策が必要となります。

 

スタートアップ企業の資本政策

 

資本政策は

・資金調達

・株主構成

・経営者のキャピタルゲイン

・ストックオプションの確保

・株式公開基準の充足

などが挙げられます。一つずつ詳しく見ていきましょう。

 

1) 資金調達

資金調達は事業計画に基づいて、いつ、誰から、どのような手段で、いくら資金を調達するのかを検討することを表します。主には自己資金、株式の発行、融資を受けるなどがあります。このなかで融資は負債になり、資産の現金化は企業の長期的な成長を見込めないため、資本政策においては株式に発行が重要です。

 

自己資金

自己資金は、自らの貯蓄や家族・親族から得た資金を指します。信頼関係による資金であるので、融通が効きやすいのが大きなメリットです。自己資金で資本対策ができれば最も理想的に経営ができますが、一般的に会社の運転資金は莫大ですべてを賄うのは困難です。

 

融資

融資とは金融機関から資金を借り入れすることを指します。実際に企業が利用できる融資機関は、大きく「公的融資」と「民間融資」の2つに分かれます。

公的融資とは国や地方自治体が行っている融資であり、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などがあります。民間融資とは、銀行や消費者金融など民間企業からの融資を指します。

これらはいずれも「負債」であり、期限付きでいずれ金利付けて返済しなければいけません。また、融資を受けるにはそれだけの会社の信用、額に見合う担保(保証人、不動産など)が必要となりますのでそもそも受けられないという場合もあります。

 

株式の発行

株式とは、株式会社が資金調達のために発行する有価証券を指します。株式発行による資金調達のメリットとしては、調達した資金を自由に使える、返済が不要などが挙げられます。

金融機関からの融資だと利用目的が制限されており、期限付きで負債を返済しなければなりませんが株式はその必要がありません。しかし、先述したとおり株式発行には株主構成に影響を及ぼすという大きなデメリットが存在します。安定株主比率の考え方を通して、詳しく見ていきましょう。

 

2) 安定株主比率の確保

株式会社の持ち主は言うまでもなく株主です。安定株主とは長期的に株式を保有する株主のことを指し、大まかに①オーナー及び親族②役員③従業員④取引先相手⑤友人知人⑥VCの順に信用度が低くなっていきます。よって、会社を安定的に経営していくには信用度が高い人に対して株式を発行することが重要になります。それでは安定株主の持株比率は何%くらいにすればよいでしょうか?ここで考えるべきであるのは会社法に準じた株主の権利です。会社法では株主総会において必要な議決権を以下のように定めています。

 

持株比率 株主権限

1/3超 株主総会特別決議の拒否権

過半数 株主総会普通決議の可決権

2/3以上 株主総会特別決議の可決権

 

特別決議…自己株式の取得、定款の変更、資本金の額の減少、株式の併合、事業の全部の譲渡などの承認決議、監査役の解任、合併・会社分割・株式交換・株式移転の承認決議

普通決議…自己株式の取得、決算の承認、取締役・監査役・会計監査人の選任、取締役・会計監査人の解任、取締役の報酬の決定、監査役の報酬の決定、総会検査役の選任

 

持株比率の目安として

・信用の高い安定株主(オーナーや親族、役員など)の持株比率が最低でも1/3以上、可能であれば過半数

・ある程度信用の高い安定株主(上記含め従業員など)の持株比率が2/3以上

を頭に入れておくことが重要です。

 

 

3) ストックオプションの確保

ストックオプションとは株式会社の従業員などが、自社株を予め決められた価格で買うことのできる権利を指します。これにより会社の株価を高めるため取締役や従業員は努力するため、全体の意欲や士気を高めることができます。高い能力や技術を持っている人を会社に迎えたいが、開業まもなく運転資金がないベンチャー企業が従業員に将来の報酬を約束する政策になります。

 

4) キャピタルゲイン

「キャピタルゲイン」とは、株式などの資産価値が上がることにより生じる利益のことを指し、購入価格と売却価格の差額を意味します。例えば、現在株価が1,200円の銘柄を80株購入したとします。その後株価が上昇し、1,400円となったところですべて売却すると以下のような計算式になります。

(1,400円×80株)-(1,200円×80株)=1.6万円

よって、差額の1.6万円のキャピタルゲインを得ることになります。長期保有した場合の配当金が5,000円であるとすれば、金額が大きいことが分かります。

資本政策においては、このキャピタルゲインの予測も非常に重要になってきます。なぜなら、キャピタルゲインは高すぎても低すぎてもデメリットがあるからです。まず、キャピタルゲインが高いとIPOなどイグジットした際にストック・オプションを付与された従業員が一斉に株を譲渡し離職する可能性があります。逆にキャピタルゲインが低いとそもそも投資家が投資に消極的になってしまう恐れがあります。このようにキャピタルゲインもバランスを考えることは資本政策を考える上で重要になってきます。

 

5)株式公開基準の充足

こちらは将来的に上場を目指す企業が頭に入れておかなければいけないことで、上場予定の2~3年前から計画を立案し実行していきます。証券取引所によって基準が異なるため、自社が上場する予定の取引所の条件を満たす必要があります。主には「形式基準」と「実質基準」の2種類の基準を満たし「金融商品取引法上の内部統制」や「証券取引所が定める企業行動規範」に沿った要件も満たさなければいけません。自社が上場したい証券取引所の条件をしっかりと頭に入れておきましょう。

 

 

スタートアップ企業の資本政策の手法

資本政策の手法として一般的であるのは

・株式移動

・株式分割

・第三者割当増資

・新株予約権

・ストックオプション

の5つです。

一つずつ詳しく見ていきましょう。

 

株式移動

株式譲渡人と譲受人双方が同意のもと、既存株主 の譲渡人が保有している株主を法人・個人に譲渡することを指します。IPOより5年程度前の株式移動取引については、譲渡価格が妥当かどうか審査されるため第三者機関(公認会計士や税理士)が作った株価算定署の提出を求められます。

 

第三者割当増資

既存株主を含む第三者に対して、新しく株を発行して割り当てることを指します。上場を目指す企業が最も行う方法で、発行先はVCや提携パートナーが多いです。発行済株式数の増加に伴い既存株主の持株比率が下がるため、慎重な株主構成の確認のもと行わなければいけません。第三者割当増資も株式移動同様に第三者機関の株価算定をしておくことが望まれます。

 

ストックオプション

これは先述の通り、従業員に対するインセンティブとして活用されます。こちらも既存株主の持株比率が下がる施策のため、慎重な判断が求められます。

 

株式分割

株式分割とは発行済株式数を、1株を2株、3株といった具合に分割することを指します。

すでに株式を保有している投資家は、分割した株が割当られます。株数が増えることによる企業価値は変わらないので、基本的に分割された分だけ株価が修正されます。株式分割を行う理由として、投資単価を下げてより多くの投資家に株主になってもらう、指定替えを目指すなどが挙げられます。持株比率の希薄化がなく、投資家側のデメリットが特にないことが特徴です。

 

新株予約権

新株予約権とは、企業が発行する株式を予め決められた価格で取得できる権利を指します。

株価が下がった場合は権利行使をしなければいいだけなので、投資家が追加的に無駄な資金が流出するリスクがありません。ストックオプションは新株予約権の一種になります。

 

スタートアップにおける資本政策のポイント

ここからは危機管理コンサルタント石川さんの実体験のもとスタートアップにおける資本政策のポイントを紹介します。

 

安定株主の持株比率が低くなり経営権を奪われる

経営者は、どんなときでもできるだけ過半数の持株比率で経営権の安定化を図るべきです。またベンチャーキャピタルなど特定の外部株主に1/3の株式を与え拒否権を与えてしまうのも経営上良くありません。初期の運転資金に困り、多くの株式を握られてしまう場合でも、ストックオプションなどによって将来的な経営権の回復を図れる、また定款であらかじめ資金調達に必要な議決を決めておくようにしておきましょう。

 

投資契約書のチェック

投資契約書は基本的に1から作成するのではなく、投資家が保有している雛形のもと修正が加えられ作成されます。初めて投資契約書を目にする経営者にとっては、複雑で何を基準に契約をすれば良いかわからないことも多いでしょう。最低限チェックしなければならないものとしては、経営の自由が制限されていないか、過剰な責任と義務が規定されていないかなどがあげられます。

 

金融商品取引法に注意する

出資に出資法があるように、資金調達には金融商品取引法というものが存在します。金融商品取引法とは、金融商品の売買に関する金融商品市場の適切な運営や、そこに関わる投資家の保護、それに伴う有価証券の情報開示制度の整備を目的とした法律です。破ると最悪上場が不可能になってしまう場合もあります。クリアな状態で事業展開ができるように資金調達の前に法律の内容を確認しておくことが大切です。

 

増資株価の失敗を避ける

創業期に安定株主比率を維持するためにため高い株価で増資をしたが、株価が高すぎてその後の投資を受けづらくなってしまうケースです。資本政策においては株価は追加増資のことを考えて設定する必要があります。

 

事業承継対策をしておく

事業承継をスムーズに進めるための対策を検討します。若い人にとって「そんなことあとでいい」と考える点ではありますが、上場後の株価は上場前に比べて高くなることが多いため、社長が死亡して相続が発生した場合、多額の税が生じ事業継承に支障が生じる場合があります。

そのため後継者が決まっている場合は、上場前に後継者への株式一部移転を検討する。または資産管理会社の活用を検討するなど、若い社長であっても今できることがないかを確認し必要に応じて対策を検討するようにしましょう。

 

 

スタートアップは誰から相談を受ければいい?

株式会社を作った段階では経理、法律、事業計画など多方面で覚えることがかなり多く、今後を見据えた資本政策を立てられない経営者が大半かと思います。事業計画書を適切に作成し、安定的な資本政策をするためには具体的に

・事業計画

・会計

・税について

・法律

・株式の仕組み

これらの知識が必要となります。

しかし、個別のアドバイザーを雇えば大きなコストがかかってしまいます。できるだけすべてのことに精通したアドバイザーを見つけることが大切です。まーけっちではアンケートプロモーションを中心に、特定ターゲットに絞った大規模なプロモーションリサーチ、新規事業支援を行っています。資本政策を含め新規事業においてのお困りの方はまーけっちまでご相談ください。

 

参考:スタートアップM&Aや資本政策・資金調達を助言する専門会社「株式会社ファイナンス・プロデュース」

株式会社ファイナンス・プロデュースはドリームインキュベータから新規事業カーブアウト・MBOを実行して誕生したスタートアップ・起業家専門の投資銀行事業を行う会社です。
主な事業内容は以下の3つです。
①FA(Financial Advisory):資本政策(エクイティ・デット資金調達やIPO/M&A)の財務アドバイザリー
②FiPaaS(”Finance Producer” as a Service):ファイナンス人材や社外CFOの専門性・ノウハウをチーム形式・月額制で提供
③スタートアップCFO・ファイナンス人材紹介
業界のボトルネックである”大型IPO”や”スタートアップM&Aの規模化と質の向上 “が当面のテーマとして、日本のスタートアップ・大企業による事業創造の更なる発展と、E-LTV(Entrepreneur’s LTV、起業家の生涯価値)の最大化に貢献します。

 

執筆協力

石川裕也
危機管理コンサルタント 石川裕也氏

行政書士、宅建士、知的財産管理技能士、個人情報保護士などを保有し、
本質的なリスク管理や経営支援を担い、数々の企業の経営危機を救う。顧問実績は●社で、上場支援経験も多数。
学校法人、社会福祉法人、宗教法人の役員や監査、上場会社の不正調査経験、M&A、不動産仲介、 音楽事務所やNPOの運営と、活躍の幅の広さには定評がある。

 

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◆著者プロフィール

フリーランス 松本敦貴

中央大学法学部在学中。一年時よりWEBマーケティング企業でインターンを経験し、フリーランスとして独立。現在はWEB、SNSの広告運用、個人としては飲食店の集客全般の支援、WEBライターとして活躍している。広告では、クリエイティブの作成、記事・動画作成、運用、改善まで幅広く手掛け、ROAS200%超えの広告を数多く担当。

 

 

◆代表プロフィール



株式会社まーけっち 代表取締役社長 山中思温

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マーケティングリサーチのプラットフォームの企業で、 最年少で事業部を立ち上げ、広告予算ほぼゼロで、国内トップの実績を達成。


中小・スタートアップ企業のマーケティングに関する構造的課題を痛感し、それを解決するため、株式会社まーけっちを創業。大手企業・国家機関・スタートアップなど100社以上の戦略支援を行い、コミットと売り上げ貢献成果に定評がある。上智大学外国語学部卒。


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