マーケティング領域のデータ分析を進める上でぶちあたりがちな3つの障壁と乗り越え方

最近では、多くの企業がWEBマーケティングに取り組んでおり、さらにさまざまなデータを統合・活用することで、マーケティングの最適化や one to one マーケティングの実現など新しい視点が求められています。

そのためにCDP※1やDMP※2を導入することで、各企業が保持する数多あるマーケティングデータを統合し、分析・活用を行う企業が増えてきました。

簡単に説明させていただきますと、オウンドデータをはじめとする顧客の行動や属性を示すデータをCDP※1 やDMP※2 に統合します。統合したデータはBIツールなどを通じて可視化し、分析を行うことで、ターゲットを明らかにします。明らかになったターゲットに対し、直接Web広告を行うことで、広告やCRM※3 の効果を最適化することが可能となります。

 

しかし導入したものの、「分析が進まない」、「活用がうまくいかない」といった声を多く伺います。そこで、データ分析を進める上でよくある障壁の3事例と、その乗り越え方をご紹介いたします。

背景

「よしっ!データの統合が完了したし、まずは分析からだ!次は広告に活用するぞ!」
DMP導入直後は期待に満ち溢れ、データが持つ未知の可能性に夢を大きく膨らませることでしょう。

ただ、こんな話をよく伺います。

「データアナリストは居るがデータが抽出できず、行き詰まっている。」
「マーケターがデータ分析も兼ねられるものかと思った。」

 導入を行い、人材を確保したものの、人材のミスマッチによりなかなかプロジェクトとしてうまく進んでいかないことが散見されます。結果的には想定よりもアウトプットが遅れ、上層部からプレッシャーを受け、メンバーからは成果が上がらず・・・

とプロジェクト担当者としては、厳しい状況に置かれてしまいます。
では、なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか。

1つ目の課題:【「データサイエンティスト」の認識の誤り】

 データサイエンティストやデータアナリストは個人を指すこともありますが、チームでないとバリューを発揮しきれない場合があります。
そう、1つ目の課題は【「データサイエンティスト」の認識の誤り】です。

最近では、魅力的な職業のひとつとして「データサイエンティスト」の話題が上ることが増えました。

データサイエンティストというと、一個人を指しているように聞こえますが、実際のデータサイエンティストはチームで動いていることがほとんど。これはデータサイエンティストに限らず、多くのデータ分析チームにおいて同様のことが言えます。

 意外かもしれませんが、データ分析に取り組む体制としてはチームであることが理想的なのです。 特にマーケティング領域におけるデータ分析に関しては、プロダクトやサービスの特徴を理解した担当者が必要になり、単に「データ」として取り扱うと、誤った解釈をしてしまう可能性があります。

この課題を乗り越えるためには、チームを推進するリーダーもしくは経営者が、
「データ分析を行うためには、多くのメンバーがそれぞれの役割にコミットしていく必要がある」ということを認識する必要があります。

理想的なデータ分析チームに必要な人材と特徴

 

マーケティング領域におけるデータ分析のチームを作り上げるには、大きく分けると以下のような人材が必要となります。

 ・ストラテジックプランナー(戦略立案)

 ・マーケター

 ・データアナリスト

 ・データエンジニア


それぞれの役割失敗しがちなことを、詳しく説明していきます。

 ストラテジックプランナー(マーケティング領域)

  多くの場合は経営戦略の一環として、DMP/CDPを構築・導入することで、売上の向上や、マーケティングの最適化、数字の見える化、などを目的にチームを発足させます。分析を行う際には、この最も大きな戦略に沿うようにデータ分析の結果を活用していくことが求められます。

しかし、経営戦略レベルの大きな話を翻訳せずにチームに分析をお願いしてしまうと、大抵の場合はなすべきことが分からず、誤ったアウトプットをしてしまうことがあります。

そこで、ストラテジックプランナー、もしくはチームリーダーが適切に翻訳し、導く必要があります。


 ー マーケター(マーケティング領域)

データはあくまで表面的な数字に過ぎず、アウトプットされたデータは、サービスやプロダクトのマーケティングをよく理解した担当者による解釈を加えなければ、誤った判断を導いてしまうこともあります。

そこで、ストラテジックプランナーが翻訳した内容に対し、実際に「どの数字を見て、何を判断するのか?」を決定するのがここでのマーケターの仕事になります。このマーケターがKPI/KGIを適切に取り決め、データアナリストに伝達します。

 データアナリスト(マーケティング/エンジニア領域)

  マーケターからの指示を受け、データをアウトプットする担当になります。
どのようなデータがあれば、「KPI/KGIを効果測定できるのか?」もしくは「仮説を検証することができるのか?」に基づき必要なアウトプットを検討し、アウトプットを行うために必要となるデータの設計を行います。

そして、データエンジニアにデータ集計の依頼をし、アウトプットされたデータを可視化していきます。場合によってはBIツールを活用してアウトプットする場合も多くあるため、データを可視化する表現力やツールに合わせた集計などのスキルも必要になります。

 ー データエンジニア(エンジニア領域)

  データアナリストから依頼を受け、指示された通りにDMP/CDPからデータを集計し、アウトプットする担当になります。数多あるデータの海から、的確なデータを拾い出すため、
「なんのデータを、どのくらい、いつからいつまで、どんな形式で」
をきっちりと定義します。

 また、データをアウトプットする以前に、データベースにおけるデータ取得の法則性やデータの整合性を的確に把握している必要があります。データボリュームが大きい場合には効率的な集計方法を検討する場合もあります。

上記の4カテゴリが理想的なデータ分析チームに必要な人材となります。

戦略を策定し、KGI/KPIを決定、指標の効果を測定もしくは、仮説検証を行うために、分析の設計を行い集計。集計が完了すると逆方向でアウトプットされていきます。

 大きく4種類に分割しましたが、実際にはスキルを複数併せ持つ人材も存在するため、必ずしも各人材それぞれ1人になるとは限りません。
(「ストラテジックプランナー」と「マーケター」を兼任など。)

 ちなみに私自身はマーケター、データアナリスト、データエンジニアを兼ねています。
もともと、データ分析とマーケティングの背景があり、最近ではSQLを書いて自身で集計を行なっています。
(マーケティング領域の人材がSQLを学ぶのはなかなか大変だなと体感しております・・・)

2つ目の課題:【必要とされる人材のスキル領域を見誤ってしまう】

 ここまでは必要となる各人材を紹介しましたが、それらの人材は領域もスキルも異なるため、人材確保の難易度も上がります。
そうなると、社内の人材を育成し配置する方法が1つの案として考えられます。

 ただ、ここで2つ目の課題【必要とされる人材のスキル領域を見誤ってしまう】ことが散見されます。

 エンジニア領域とマーケティング領域では求められるスキルの性質が大きく異なるため、特性をよく理解する必要があります。

 例えば、すでにマーケターはいるがデータアナリストが存在しない場合、マーケターにデータ分析の基本や活用を学ばせ育成することで、データアナリストの素質を兼ね合わせることができます。

 (一部ではデータマーケターなどと言われることもあります。)

 ただ、スキルの性質的にもマーケティングスキルを持つ人材のエンジニア領域スキルを伸ばすことになると、学習者の負荷が高い育成になってしまいます。これは逆も然りで、エンジニアからマーケティング領域も負荷が大きい育成になります。

 負荷の少ない例としては、データエンジニアであれば、データ分析のスキルを取得し、データ分析の設計からデータ抽出までできる人材に育てるようにするなどです。

■エンジニア領域はデータアナリストまで
■マーケティング領域はデータアナリストまで

 が負荷が少なく、最適ではないかと考えます。

3つ目の課題:【チーム内における連携が非効率的】

ここまでくると分析チームが発足し、ようやく分析を行う土壌が整ったかと思います。

 しかし、実際に分析を始めると、今度は分析が完了するまで時間を要してしまい、思いの外うまく稼働出来ていない・・・という課題をよく伺います。
3つ目の課題は【チーム内における連携が非効率的】であることです。

例えばよく聞く事例では、データアナリストがデータエンジニアに集計を依頼したが、想定と異なるデータセットがアウトプットされ、再集計の依頼が必要になり、工数が見込みよりも多くかかってしまう場合があります。

 データエンジニアはSQLなどの言語を使用しデータの抽出を行いますが、データの持ち方、条件など細かく指定して抽出する必要があります。

 ただ、データアナリストが集計のイメージできていないと、ファジーな要望を出してしまい、結果的に再集計を行うことになる場合があります。

 この課題を解決する方法として、チーム内で「誰が」「どんなことをして」「何をするのか」を把握することが重要になります。

 データアナリストが実際のSQLを記述するイメージが持てれば、何を伝えて、何を条件にする必要があるかが分かります。スキルを身につけるとなると負荷が大きくなってしまいますが、実務の一部を共有することはそこまで難しくはありません。

 マーケティング領域とエンジニア領域の特性が異なるということを認識し、互いに理解し合うことで、効率的に成果を出すチームへと変わっていきます。

結び

 改めてご紹介した3つのよくある障壁と、乗り越え方を振り返ります。

 1:【「データサイエンティスト」の認識の誤り】

   →データサイエンティストやデータ分析は個人ではなく、チームである認識を持つ

 2:【必要とされる人材のスキル領域を見誤ってしまう】

   →チームに必要な人材とそのスキルセットを的確に把握する

 3:【チーム内における連携が非効率的】

   →チーム内で互いの業務を理解し合う

 データ分析はあくまで施策や戦略の助けとなる仮説や結果を導き出す「手法」の一つでしかありません。その上で最適なアウトプットを出すために、効率的なチームを作ることが、より高いバリューを出すことにつながります。

 数多の異なる領域、スキルセットの集まるデータ分析チームだからこそ、互いが理解し進めていくことで大きな貢献を果たすチームとなると考えています。

 私が所属する株式会社Legoliss では、DMP/CDPが保有するデータの分析をはじめ、コンサルティング、スキルトランスファーなど、データを軸としたありとあらゆるマーケティング施策の支援を行っております。ご質問・お問い合わせはお気軽にお申し付けください。

著者プロフィール

株式会社Legoliss データアナリスト 石田博貴

 株式会社Legoliss データアナリスト 石田博貴

土木工学の修士課程において、データマイニングやモデリングの研究に携わる。その後、WEBリサーチ系の会社に入社。主にマーケティングリサーチディレクターとして、消費財・耐久財問わずアジアを中心とする海外のWEBリサーチに従事。また、同社にて自社ポイントアプリにおけるマーケターも担当。リサーチ及びデータ分析に基づき課題を定義、改善点の提案~実行することでUI/UXを改善し、離脱ユーザーの軽減に貢献。現在Legolissでは、ナショナルクライアントのマーケティング課題や保持するデータに合わせて分析の設計・集計・アウトプットまで幅広く担当。分析設計においては統計学の知見を活かし、独自の手法を構築している。マーケティングを理解し、俯瞰した視点で最適な分析を提供することが強み。

登壇履歴:2019 IT week 春 Treasure Data Plazma
E-mail:  info@legoliss.co.jp

【参考】

※1 CDP(カスタマーデータプラットフォーム:Customer Data Platform)とは

顧客一人ひとりの属性データや行動データを収集・蓄積・統合するためのデータプラットフォームです。キーが顧客個人であることが特徴で、Web訪問履歴を代表とするログデータに限らず、オフラインの購買情報や位置情報、アスキングデータ、IoT対応の製品から得られるデータなども収集、統合します。

※2 DMP(データマネジメントプラットフォーム:Data Management Platform)とは
インターネット上の様々なサーバーに蓄積されるビッグデータや自社サイトのログデータなどを一元管理、分析し、最終的に広告配信などのアクションプランの最適化を実現するためのプラットフォームのことです。

※3 CRMとは(カスタマーリレーションシップメディア:Customer Relationship Management)「顧客関係管理」の意味。顧客の情報を収集・分析して、最適で効率的なアプローチを行い、自社の商品やサービスの競争力を高める経営手法のこと。顧客と接する機会のあるすべての部門で、顧客情報とコンタクト履歴を共有・管理することで、問い合わせやトラブルに対応できる。

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