マップがメディアに掲載されて、業界の誰もが知るまで拡散した経験を元に、カオスマップについて徹底解説してみようと思います。
今回は作り方の、企業を調べリストアップする調査の手順について。
読み手とスコープを仮決めする
最初に何のマップを作るかを決めるために、読み手を決め、読み手から導き出される関心の範囲を仮で決めます。なぜ仮かというと、実際調べていく中で解像度が上がり、境界が広がったり、具体化したりするからです。
例えば教育に関するカオスマップを作る場合、子供向けなのか、大人の学びも入れるのか、大人もMBAなど学校や教育サービス事業の範囲なのか、研修まで含めるのか、更には、リタイアしたシニアも含めた生涯教育まで含めるか、趣味的なスクールまで入れるかなど、範囲の切れ目は思いの外多様にあります。
その境界を明確な根拠に基づいて決めなければ、なぜこの企業を入れたのか、あるいは入れなかったのか、聞かれた時に説明ができなくなります。
既存マップを調べ、方針を調整する
多くの場合、既存のマップがあります。私が不動産テックのマップを作った際は、たまたまそれがなかったので作りましたが、日々新しいマップが出ている今、それはレアなケースでしょう。
全く同じマップがあった場合どうするかの対応は、目的によります。自社の名前を売るために拡散させたいのなら、すでにあるマップの焼き直しをしても、注目される確率は低いでしょう。軸は変えられなくても、違う切り口を考えねばなりません。
ただ、既存のマップがあっても、それが必ずしも出来がいいとは限りませんし、定期的にアップデートされていないかもしれません。その場合、リプレイスしていくという戦略もあります。マップが何かの権利で保護されているとも思えませんので、より良いものを作る、ということは可能です。
目的がリサーチのためなら、既存のものは単に参考にすればいいでしょう。ただ、そもそもマップにまでする必要があるか、リストアップだけでいいかもしれません。
業界構造理解のための俯瞰的情報を集める
範囲を固めたら、その業界構想を理解します。どんなプレイヤーが、どんなビジネスモデルや競争戦略で戦っているのか、どんな業界同士が川上・川下や代替品として位置しているのか、どんなビジネスプロセスやバリューチェーンになっているのかなどです。
それが分かると、ビジネスを1つ1つ調べていく際に、これはどこに位置し、誰のどの部分に対して、どのような価値を提供していて、誰に対してどのような差異化をしているのかといったカテゴライズを、調べながら目星をつけられるようになります。
読み手はマップの対象範囲内のプレイヤーであり、何が自分たちのビジネスモデルに対する脅威、機会、補完となるかの関心分野が分かれば、カバーすべき範囲もより具体的に理解できてきます。
業界の主要な区分や、区分ごとの主なプレイヤーが分かれば、それが調べ始めの重要なキーワードとなります。入り口としてはいくつかの出版社から出されている『業界地図』や、その業界の解説本がいいでしょう。
不動産なら、不動産業界に関するものと、その業界をディスラプトする不動産テック業界のものがあるでしょう。基本的には既存の業界に関する記事の方が、歴史が長く読み手も多いため、情報は多くなります。
ビジネスモデルを図解するには、ビジネスモデル図鑑のような、他者と認識を揃えられる方法論があると、複数人で作る際には役立つと思います。
具体的な情報ソース
無料の情報でもそれなりに多くのことが分かります。業界を概観するものなら、官公庁や業界団体、シンクタンクやコンサルティングファームが出しているレポートにまとまった情報があることが多いです。
下記のサイトにはなぜかその手の無料レポートが日々集められ、検索可能になっており、思いの外重宝します。
また、各上場企業のIR資料や採用ページにも業界構造を理解するのに分かりやすい資料が多くあります。専門家ではない人々に対して、投資をしてもらう、採用に応募してもらうといった、重要な意思決定をしてもらうために、十分な情報を分かりやすく整理しなければならないからです。
証券会社など金融機関もアナリストレポートを公表している場合があり、これはビジネス観点で分析しているので、役に立つことが多いです。
有料・非公開の情報を無料で手に入れる
良い情報を作るには当然コストがかかり、お金を払わないと手に入らないことも多いです。しかし、無料で手に入れる方法もあります。
アナリストレポートは、金融機関にとってのクライアント側の立場の人にツテがあれば、手に入れられる可能性があります。
日経テレコンが使えると、日経ビジネス、東洋経済、ダイヤモンドといった主要なビジネス雑誌のみならず、日経新聞、日経産業新聞などの経済紙、各業界の専門誌に到るまで、横串で検索し、記事をダウンロードできます。ただし、通常は検索だけでもお金がかかるなど、とても高額です。
しかし、大学・大学院の学生なら、学校が法人契約をしていて使い放題、ということもあります。そのような大学生を1人でも巻き込むと格段に調査がしやすくなります。
時々、口座を持っているとテレコンが使える証券会社もあります。口座開設はお金がかからないのでそれも一案かもしれません。
業界によっては調査会社が発行する調査レポートがあることもあります。これは通常数万〜数十万するのですが、時々国会図書館や専門の図書館などに置いてある場合があります。
他は業界地図などで、自分の調べる業界のページを見て、主要プレイヤーを把握するなどです。これだけ調べて必要なものを手に入れると、業界の大まかな構造はわかります。
調査情報を蓄積していくリストを作る
読み手、関心、範囲を定め、基本構造を理解したら、あとは調べるだけですが、これもやみくもに調べると非効率です。よって、何の情報を取るかを決めて、リストの雛形を作ります。
マップに必要なのは企業ではなくてプロダクトのロゴなので、基本はプロダクト情報がキーになりますが、それに付随して後ろに企業の基本情報を入れる欄もつけます。
重要なのは、調べながらカテゴリを考えていくことです。調べながら理解が進むので、仮で区分しながら、ある程度調べて理解が進んだらまとめて見直すのが実際の進め方です。また、階層は最終的には2つくらいになりますが、調べている間は5つ6つまで整理用にどんどん書き足すことになることもあるでしょう。
また、あとで調べなおさなくて済むように、プロダクト、会社や記事のURLは残しておいた方がいいです。あと、なんとなく気づいたことや気になったことも、メモとして残しておく欄を設けておくといいでしょう。根を詰めて調べているとすぐに忘れてしまいますが、案外そういったメモがあとで役に立ったりするからです。
効率的に、ひたすら調べる
こうなればあとは調べるだけです。ただし、やみくもに調べると、途中で同じワードで検索していることに気づくでしょう。よって、少し手間ですが、検索ワードを記録しておきます。実は検索ワードは大きく2種類に分かれます。
<汎用組み合わせワード>
・競合、テック、ディスラプト・・・
→どんな業界でも検索に使える
<専門用語・固有名詞>
・企業、サービス、カテゴリ、経営者などの名称
・「重要事項説明」「物件確認」など、業界人しか知らない言葉
上記を記録しておくと、複数人で検索する時の分担にも役立ちます。実は、この調査は調べながら理解を進めると、最初からクリアな切り分けで調査範囲を分担しにくいため、複数人で効率的に作業を分担しにくいのです。結果、皆で同じ会社をひたすらリストアップする、という事態が発生します。
キーワードを記録しながら、1~2時間といったインターバルですり合わせの時間を取り、重複がないように進めるのが、現実的なやり方ではないでしょうか。
調べながら解像度を上げていく
冒頭に述べたとおり、調べ始めの時点では読み手のペルソナや関心の解像度も高くはないのですが、調べている内に、徐々にどんなプレイヤーがいて、どんなビジネスをしており、どんな機会や脅威を認識しているかのイメージが具体化してきます。そうすると、どこまでが関心のカバー範囲か、どこからは関心の範疇外かの判断が、根拠に基づいてできるようになります。
また、1つ1つのプロダクトを調べながら、その裏にあるビジネスモデルを簡単にイメージし、時には裏付け調査を重ねていると、マップの範囲内にどのようなビジネスモデルや競争戦略が存在していて、その境界がどこにあるか、つまり、カテゴリの範囲も根拠をもって説明できるようになってきます。
逆に言えば、単に作業的に調べて情報を転記するようなことをしてしまうと、業界に対する理解を深める折角のチャンスをフイにしてしまいます。
折々にレビューを入れる
根を詰めて調べているとどうしても近視眼的になります。よって時々、メンバー間で意見交換をしたり、業界の中の人に意見を求めたり、アナリストやコンサルタントのような調査のプロの意見を求めてみたりするといいでしょう。ビジネス経験があるだけの門外漢でも、人に説明し、先入観なくフィードバックしてもらうだけでも、十分価値はあります。
このようにして200プロダクトくらいピックアップすると、マップを作るのに十分な分量にはなります。そのくらいを量的な目安に、想定する読み手の観点に立って、調べ尽くしたと言えるくらい、考えながらリストアップしてみると、業界のことも結構なレベルでわかるようになると思います。
ぜひ試してみてください。